第10章 10.3 ← 10.0 まとめと次の一歩
プロジェクトを回した経験は、どこで効くか
「PMをやりました」は、実は何も伝えていません。伝わるのは、その中で身についた3つの動作のほうです。この記事では、その3つがどの方向に効くのか、そして各方向で何が足りなくなるのかを整理します。
この記事の要点
- 身についているのは「プロジェクト管理」ではなく、分ける力・出す力・通す力の3つです。
- 効く方向は3つ。管理職、企画・PMO、事業側・プロダクト側。
- どの方向でも足りなくなるものがあります。そこが次に埋める場所です。
- 職務経歴書に書くのは役職名ではなく、3つのどれをどう使ったかです。
- いちばん危ないのは、「便利な調整役」のまま固定されることです。
手元にあるのは、資格でも役職でもありません
案件を何件か回すと、たしかに何かが身につきます。ただ、それは「プロジェクト管理という技能」という塊ではなく、もっと分解された3つです。
- 分ける力——大きくて曖昧な塊を、担当と期日がつく大きさまで割れる。2.2でやったことです。
- 出す力——悪い情報を、早く、角を立てずに表に出せる。8.2で見た、いちばん差がつく動作です。
- 通す力——権限のない相手を、代償を見せて動かせる。4.2の話です。
この3つは、業種も職種もまたぎます。だから次の役割を考えるときは、「PM経験があるから何ができるか」ではなく「この3つが要る仕事はどれか」と考えるほうが、選択肢が広がります。
方向1:管理職・ラインの長へ
国内でいちばん多い進み方です。プロジェクトを何件か回すと、課長や部長といったラインの役職に移ります。
効くのは、分ける力と出す力です。部下を持つと、最初に問われるのは仕事の割り振りです。誰に何をどの大きさで渡すか。これはWBSを切るのとほぼ同じ作業です。そして次に問われるのが、悪い報告を受けきることです。8.2で見た「赤にすると会議が増える」構造を、今度は上げる側ではなく受ける側で解くことになります。
足りなくなるのは、評価と育成の視点です。プロジェクトは終われば解散しますが、ラインは続きます。1年後にその人がどうなっているかまで含めて考える必要が出てきます。ここはプロジェクト管理では扱わなかった領域です。
方向2:企画・PMO・情報システムの中核へ
1件を最後まで運ぶ側から、複数の案件を横から見る側に移る道です。PMO、経営企画、情報システム部門の中核などがここに入ります。
効くのは、分ける力と通す力です。仕事の中身は「止まっているところを見つけて外す」ことで、止まる理由の多くは部署をまたぐところにあります。権限がない相手を代償を見せて動かす、というやり方がそのまま使えます。
足りなくなるのは、数字で語る力です。1件のプロジェクトなら「遅れています」で通じますが、10件を横から見る立場では、どれから手をつけるかを数字で説明しないと動けません。ここで会計や投資判断の言葉が必要になります。
方向3:事業側・プロダクト側へ
「いつまでに何を出すか」を決められた側から、決める側に回る道です。プロダクトマネージャー、事業企画、サービス企画などがここに入ります。
効くのは、出す力と通す力です。決める側の仕事は、実は決めることそのものより、決める材料をそろえることです。不確かなことを不確かなまま早く共有し、関係者から判断を引き出す。これは案件を回しているときにやってきたことと同じです。
足りなくなるのは、顧客と市場の理解です。プロジェクトでは「何をつくるか」はたいてい与えられていました。事業側では、それ自体を疑うのが仕事になります。ここは経験の質が変わるので、意識して埋める必要があります。
いちばん危ないのは、動かないことです
3つの道のどれも選ばず、案件を回し続けること自体は悪くありません。むしろプロジェクトを最後まで運べる人は、どの組織でも足りていません。
危ないのは、「あの人に頼めば何とかなる」という状態で固定されることです。日本の組織ではこれが起きやすく、しかも本人にとっては悪い気分ではありません。頼られている実感があるからです。
ただ、この状態は属人化そのものです。組織にとってはリスクで、本人にとっては次の役割に進めない理由になります。「その人が抜けると困るから動かせない」という判断は、実際によく起きます。
対策は10.1と同じで、やっていることを言葉にして残すことです。誰でも回せる形にしておけば、自分は次に行けます。
職務経歴書に書くこと
転職や社内公募で書類を出すとき、「プロジェクトマネージャーとして◯件を担当」とだけ書かれた経歴書は、読む側には何も伝えません。規模も、条件も、何をしたかも分からないからです。
書くのは3つの動作のほうです。
受発注システム更改(社内7名/ベンダー4名、8か月、兼任で担当)
・作業を2〜3日単位に分割し、週次で完了数を追う運用に変更。進捗報告の食い違いをなくした。
・遅延判定の基準を日数で定義し、判断を個人の感覚から外した。
・月1回、決裁者に判断事項のみを提示する場を設け、終盤の差し戻しをゼロにした。
役職名ではなく、何をどう変えて、何が起きたか。これが書けるかどうかが、10.1で記録を残してきたかどうかで決まります。
ABではこう見えます
AB Projectsのような場所に案件の経過が残っていると、上のような経歴を思い出しではなく記録から書けます。何人で、何か月で、どこで詰まって、何を変えたか。数年前の案件でも引けます。
そして「誰でも回せる形にしておく」という点でも同じです。自分の頭の中にしかない段取りは、抜けられない理由になります。外に出しておけば、次の役割に進めます。
最後に
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。10章44ページありましたが、覚えて帰っていただきたいのは3つだけです。分ける、出す、通す。
あとは、来週の案件で1つだけ試してみてください。それだけで、このページを開いた意味があります。
このページで使った言葉
- PMO
- 複数のプロジェクトを横から支える組織や役割です。方向2の行き先にあたります。くわしく →
- 属人化
- 特定の人しか分からない状態です。頼られている実感の裏側で、次に進めない理由にもなります。くわしく →
- 体制
- 誰がどの役割を持つかの並びです。経歴書では、まずこれを1行で書くと伝わります。くわしく →
- 兼任
- 本業を持ったまま別の役割も担うことです。経歴書には、この条件も書いたほうが正しく伝わります。くわしく →
- 丸投げ
- 中身を見ずに任せきることです。管理職に移ったとき、分ける力がないとこうなります。くわしく →