4.2 ステークホルダーの管理とは?|関係者との信頼関係と影響調整を設計する

4.2 ステークホルダーの管理
プロジェクトが順調に進むかどうかは、チーム内部だけでなく、外部の関係者(ステークホルダー)との関係にも大きく左右されます。
むしろ、スケジュールの遅れやスコープの混乱の多くは、ステークホルダーとの認識のズレや合意形成の失敗によって引き起こされることが少なくありません。
ステークホルダーの管理とは、関係者を把握し、影響度に応じた関与戦略を設計し、プロジェクトの目的に向けて合意と協力を得るプロセスです。
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ステークホルダーとは?
PMBOKにおける定義では、ステークホルダーとは:
「プロジェクトに影響を受ける、または影響を与える個人・組織・団体」
つまり、チームメンバーはもちろん、依頼主、上層部、顧客、外部ベンダー、法務部門、現場のユーザーなどもすべてステークホルダーに含まれます。
彼らの期待・立場・関心を理解し、調整することがプロジェクトマネージャーの重要な仕事です。
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1. ステークホルダーの特定
まずは、プロジェクトに関与する可能性のあるすべての関係者を洗い出します。
次のようなカテゴリごとに整理すると抜け漏れを防げます:
- 意思決定者: 経営層、部門長、プロダクトオーナー
- 実務者: 開発チーム、営業、カスタマーサポート
- 利用者: エンドユーザー、店舗スタッフ、顧客
- 支援部門: 法務、経理、情報システム部門
- 外部関係者: ベンダー、業者、委託先
特定したステークホルダーには、以下のような情報を紐づけて管理します:
- 氏名・所属・役職
- プロジェクトへの影響力
- 関心の高さ(関心度)
- 期待・懸念事項
- 合意が必要な場面
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2. ステークホルダーの分類と優先順位付け
すべてのステークホルダーに同じように対応するのは現実的ではありません。
そこで、影響力と関心度の2軸で分類し、対応の優先順位と戦略を考えます。
ステークホルダー影響度マトリクス(Power-Interest Grid)
影響力\関心度 | 低 | 高 |
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高 | 満足維持(Keep Satisfied) | 密接に管理(Manage Closely) |
低 | 定期的にモニタリング(Monitor) | 情報提供・説明強化(Keep Informed) |
「影響力が高く、関心も高い」ステークホルダーは、特に密な報告と対話が求められる存在です。
一方で「関心が低く、影響も小さい」相手には、最低限の情報提供で十分です。
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3. ステークホルダーエンゲージメント計画
分類したステークホルダーに対して、関与戦略(エンゲージメント戦略)を立てます。
以下のような観点で、具体的なアプローチを設計します:
- どの場面で関わってもらうか(意思決定、承認、レビューなど)
- どのような手段で関わってもらうか(会議、文書、1on1など)
- どれくらいの頻度で接点を持つか(週次、月次、随時)
その際に重要なのは、相手の立場や優先事項に寄り添った情報提供です。
例えば、経営層には「ROIや全体への影響」、実務者には「作業への影響やスケジュールの詳細」など、相手に合わせた内容と粒度を意識しましょう。
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4. ステークホルダーとの信頼構築
管理や戦略だけでは、人は動きません。
プロジェクト成功のためには、関係者との信頼関係を築くことが不可欠です。
信頼構築のために大切なこと:
- 期待に応える: 小さな約束を確実に守る
- 先に伝える: 問題や変化が起きたときは即座に連絡
- 聞く姿勢を持つ: 一方通行ではなく対話を大切にする
信頼は一朝一夕には築けませんが、ひとたび得られれば、ステークホルダーは“味方”としてプロジェクトを支えてくれる存在になります。
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まとめ:プロジェクトは「チームの外」との関係でも動く
プロジェクトをうまく進めるには、内部の体制だけでなく、外部との“合意と連携のデザイン”が欠かせません。
ステークホルダーの管理とは、単なる情報共有ではなく、意図的な関係構築のマネジメントなのです。
関係者との関係を「放置」せず、「設計」すること。
それが、安定したプロジェクト運営の土台となります。
→ 次は「4.3 コミュニケーション計画」に進みましょう。

下田 昌平
株式会社レシートローラーのCEO兼CTOとして、現在電子レシートサービスの開発や、会話を自動で仕分けてアクションタスクを生成するシステム「ACTIONBRIDGE」の開発を手掛けています。幼少期からプログラミングに親しみ、96年には測定器向けのプログラム開発にも携わるなど、技術に対する深い探究心を持ち続けています。 前職では、コールセンター業界最大手の企業の子会社である研究開発会社のCEO/CTOを務め、数多くの技術開発プロジェクトをリードしました。現在もなお、プログラミングの最前線でコードを書き続けています。カテゴリー
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下田 昌平
株式会社レシートローラーのCEO兼CTOとして、現在電子レシートサービスの開発や、会話を自動で仕分けてアクションタスクを生成するシステム「ACTIONBRIDGE」の開発を手掛けています。幼少期からプログラミングに親しみ、96年には測定器向けのプログラム開発にも携わるなど、技術に対する深い探究心を持ち続けています。 前職では、コールセンター業界最大手の企業の子会社である研究開発会社のCEO/CTOを務め、数多くの技術開発プロジェクトをリードしました。現在もなお、プログラミングの最前線でコードを書き続けています。