第4章 4.3 ← 4.0 チームと関係者
全員に同じ資料を送るのは、伝えたことになりません
「ちゃんと共有したはずなのに、聞いていないと言われる」。これは相手の落ち度ではなく、伝え方の設計がないだけです。誰に、何を、どの頻度で、どういう形で。この4つを先に決めておくと、伝わらない問題の大半が消えます。
この記事の要点
- 相手によって知りたいことが違います。同じ資料を全員に送っても、誰の役にも立ちません。
- 決裁者が知りたいのは「間に合うか」と「何を決めればいいか」の2つだけです。
- 定例は情報を配る場ではなく、言いにくいことが言える場として設計します。
- 議事録は記録ではなく、合意の範囲を確定する文書です。だから当日中に出します。
- 悪い知らせは、早く・小さく・次にいつ言うかとセットで伝えます。
伝え方の設計は、1枚の表で足ります
コミュニケーション計画という言葉は大げさですが、中身はこれだけです。プロジェクトの最初に15分で作れます。
決裁者には、3行で足ります
決裁者に長い資料を送るのは、親切ではなく怠慢です。読む時間がないことは分かっているので、実質的には「読まなくていい」と言っているのと同じになります。
この人が知りたいのは、突き詰めると2つだけです。間に合うのか。私が決めることは何か。だから3行で書けます。
・3月末の稼働は、現時点で見通しどおりです。
・データ移行の範囲について、2月10日までにご判断をお願いします(A案/B案は別紙)。
・次回の報告は2月20日です。
3行目が地味に効きます。次にいつ聞けるかが書いてあると、その間は聞かれません。書いていないと、不安になった時点で細かい質問が来ます。
定例は、情報を配る場ではありません
日本の現場では、定例が事実上の統制の仕組みになっています。だからこそ、設計の仕方で価値が大きく変わります。
よくないのは、参加者が順番に近況を話す形式です。30分かかり、全員が自分の番以外は聞いておらず、そして言いにくいことは出てきません。順番に話す形式は、悪い報告をするのに勇気が要りすぎます。
効くのは、2.3でも触れた「ボードを一緒に見て、止まっているものだけを聞く」形です。10分で終わります。そして人は「遅れています」とは言いにくくても、「これは○○さんの回答待ちです」なら言えます。言い方の敷居を下げる設計です。
もうひとつ、日本の定例で意識しておくとよいのは、その場で決まらないことが多いという前提です。持ち帰りが発生するのは普通のことなので、「では、いつまでに誰が回答しますか」を必ず聞いて終わります。これがないと、持ち帰ったまま消えます。
議事録は、当日中に出す
日本の実務で、議事録は単なる記録ではありません。合意の範囲を確定する文書として機能します。あとで解釈が割れたとき、拠りどころになるのは記憶ではなく議事録です。
だから2つのことが大事になります。
ひとつは速さです。当日中、遅くとも翌日中に出してください。時間が経つと、参加者の記憶がそれぞれの都合のいい形に固まってしまい、訂正が交渉になります。当日なら、まだ全員の記憶が同じです。
もうひとつは曖昧な言葉を具体化しておくことです。会議で「移行完了までに対応します」と言われたなら、議事録には「移行完了(=3営業日の並行稼働が終了した時点)までに対応」と書きます。ここで一度確認が入ります。その30秒が、あとの3週間を防ぎます。
議事録に必ず入れる4つ
決まったこと(と、その理由)/決まらなかったこと(と、いつ誰が決めるか)/持ち帰り(誰が・何を・いつまでに)/次回の日程。発言の記録は要りません。誰が何と言ったかより、何が決まって何が決まらなかったかのほうが、あとで必要になります。
悪い知らせの、伝え方
これは9.2でも扱いますが、伝え方の設計としてここでも書いておきます。悪い知らせには、決まった形があります。
事実 → 影響の大きさ → いつ次に言うか。この3つを、早く、小さいうちに。
「共有です。データ移行が3日ほど遅れています。いまのところ稼働日には影響しません。取り戻す手を打っていて、木曜日に見通しをまたお伝えします。」
この形にすると、相手から追加の質問が出ません。知りたいことが全部書いてあるからです。逆に「遅れています」だけだと、「どのくらい」「間に合うのか」「どうするのか」と3往復します。3往復するあいだに、話が大きくなります。
そして早く言うことが何より効きます。三日の遅れを三日目に言えば情報ですが、一か月黙ってから言うと事件になります。中身は同じなのに、受け取られ方が変わります。
ABではこう見えます
AB Projectsでは、議事録をプロジェクトWikiに置き、そこで決まったことをタスクとして切り出す形が自然です。「誰が・何を・いつまでに」がそのままタスクの形なので、議事録から抜け落ちません。
定例の材料も、資料を作らずボードをそのまま見るのがいちばん速く、そして正確です。報告のために資料を作ると、資料のための作業が発生し、しかもその資料は実態より少しきれいになります。
このページで使った言葉
- 議事録
- 打ち合わせの記録ですが、日本の実務では合意の範囲を確定する文書です。当日中に出すこと、曖昧な語を具体化することが要点です。くわしく →
- 定例
- 決まって開かれる打ち合わせです。情報を配る場ではなく、言いにくいことが言える場として設計します。くわしく →
- 持ち帰り
- その場で決めず、自分の組織に相談することです。発生した時点で「誰が・いつまでに」を決めておかないと消えます。くわしく →
- 報連相
- 報告・連絡・相談の略です。伝え方の設計とは、この3つがどこで起きるかを決めることでもあります。くわしく →
- 進捗
- 計画に対してどこまで進んだかです。相手によって、知りたい粒度がまったく違います。くわしく →
- エスカレーション
- 自分の権限で決められないことを、決められる人に上げることです。悪い知らせの伝え方は、その入口になります。くわしく →