第10章 10.1 ← 10.0 まとめと次の一歩
1件終わるごとに、1つだけ変える
プロジェクト管理は、本を読んでも上手くなりません。上手くなるのは、案件を1件終えたあとに「次はここを変える」と1つ決めたときだけです。この記事は、その回し方の話です。
この記事の要点
- 教材は本ではなく、いま抱えている案件そのものです。
- 1件やる → 30分ふりかえる → 変える1つを決める → 次で試す。この4つを回します。
- 変えるのは必ず1つだけ。2つ以上にすると、どれが効いたか分からなくなります。
- 経験は自動では貯まりません。言葉にした分だけ残ります。
- 小さい案件でも1周は1周です。むしろ回数が稼げる分、有利です。
なぜ、読むだけでは伸びないのか
プロジェクト管理の知識は、そのほとんどが「言われれば当たり前」のことです。作業は分けたほうがいい。悪い知らせは早く出したほうがいい。誰も反対しません。
にもかかわらず現場でできないのは、知らないからではなくその場の判断としては、やらないほうが合理的に見えるからです。8.2で見たとおり、赤にすると会議が増えます。分ける作業には今日の時間がかかります。
だから、知識を増やしても行動は変わりません。変わるのは、やってみて、痛い目か楽をした経験がついたときだけです。その経験を確実に取りに行く仕組みが、次の輪です。
② 30分のふりかえりを、反省会にしない
ここが一番つまずくところです。日本の職場でふりかえりの場を作ると、放っておけば反省会になります。誰のせいで遅れたか、何が甘かったか。そういう場になった時点で、次からは誰も本当のことを言わなくなります。
7.2で書いたとおり、聞くのは人ではなく進め方です。質問を3つに固定してしまうのが確実です。
- 今回、思ったより時間がかかったのはどこですか。
- もう一度同じ案件をやるなら、どこを先にやりますか。
- 次の案件で1つだけ変えるなら、何にしますか。
1人でやる場合も同じです。30分、この3つに答えるだけ。書く場所は、次の案件の立ち上げで読み返せるところにしてください。
③ 変えるのは、必ず1つだけ
ふりかえると、たいてい5つも6つも出てきます。全部やりたくなりますが、やめてください。理由は2つあります。
1つは、続かないからです。次の案件が始まると、目の前の作業に押されます。5つ覚えていられる人はいません。
もう1つは、どれが効いたか分からなくなるからです。5つ同時に変えて結果が良くなっても、次に何を残すべきか判断できません。1つずつなら、効かなかったときに戻せます。
選び方は単純です。今回いちばん痛かったことを1つ選びます。楽しそうなことではありません。
小さい案件のほうが、有利です
「大きな案件を任されないと経験にならない」と思われがちですが、逆です。回す回数が効くので、3か月の案件を年4件やるほうが、1年の案件を1件やるより4倍の周回になります。
部内の小さな改善、他部署との共同作業、イベントの準備。終わりが決まっていて、複数の人が関わるなら、それはプロジェクトです。1周として数えてかまいません。
書き残さないと、消えます
ふりかえりの結果を頭の中だけに置くと、3か月で消えます。これは記憶力の問題ではなく、次の案件の情報で上書きされるからです。
残し方は簡単でかまいません。案件名、期間、決めた1つ、その結果。4行です。3年で12行になれば、それが自分の型の一覧になります。
この一覧が効くのは、はじめての種類の案件を任されたときです。「今回は移行が絡むから、6件目でやった段階リリースの型が近い」と考えられるようになります。属人化という言葉は普通は組織の問題として使われますが、自分の経験も、書かなければ自分の中で属人化します。
ABではこう見えます
AB ProjectsのプロジェクトWikiに、案件ごとにこの4行を残しておくのが一番手間がかかりません。案件が閉じたあとも検索できるので、次の立ち上げで「前に似た案件があったはず」を実際に引けます。
また、ふりかえりそのものを計画時にタスクとして置いておくと、飛びません。7.0で書いたとおり、終結の作業は意志ではなく段取りで守るものです。
このページで使った言葉
- ふりかえり
- 進め方そのものを見直す場です。人ではなくやり方を扱うこと、反省会にしないことが条件です。くわしく →
- プロジェクト
- 終わりが決まっている、一度きりの仕事です。小さくても条件を満たせば1周として数えられます。くわしく →
- 属人化
- 特定の人しか分からない状態です。書き残さなければ、自分の経験も自分の中で属人化します。くわしく →
- 手戻り
- やり直しのことです。ふりかえりで「痛かったこと」を挙げると、たいていこれが出てきます。くわしく →
- 兼任
- 本業を持ったまま別の役割も担うことです。変えるのを1つに絞る理由は、ここにあります。くわしく →