第5章 5.3 ← 5.0 道具の選び方
バックログは、断らずに断るための道具です
要望を断るのは、誰にとっても気が重い仕事です。だから多くの人は断らず、黙って抱え込みます。バックログの本当の価値は、やることの一覧を持つことではなく、「やらない」と言わずに順番で示せることにあります。
この記事の要点
- バックログの価値は一覧を持つことではなく、順番が一列に決まっていることです。
- 同率1位を作らないでください。並列の優先度は、優先度をつけていないのと同じです。
- 順位は「重要かどうか」ではなく「今回の目的にどれだけ効くか」で決めます。
- 断るかわりに「いま8番目です」と示すと、相手が自分で判断できます。
- 下に置いた要望を消さずに残しておくと、「なかったこと」にされたと思われません。
ひとつの並びに、全部を入れる
バックログは、やることもやらないことも、決まっていることも要望段階のものも、すべて同じ一列に並べます。カテゴリ分けはしません。上にあるものから順にやります。
同率1位を、作らない
優先度を「高・中・低」で管理している一覧は、たいてい機能していません。「高」が15件並ぶからです。15件が同率1位なら、それは優先順位をつけていないのと同じで、結局その場でいちばん強く言った人の要望から着手されます。
一列に並べると、これができません。1番と2番のどちらが先か、必ず決めなければならない。この「決めなければならなさ」が、バックログの本体です。
並べるときの基準は、重要かどうかではありません。今回の目的にどれだけ効くかです。2.1で書いた「達成したい状態」が一文で書けていれば、この判断はかなり機械的にできます。「月末の締め作業を3人日から1人日にする」が目的なら、締め作業に効かない要望は自動的に下に行きます。
断るかわりに、順番を見せる
ここがバックログの実務的な威力です。要望が来たときの返し方が変わります。
「それはやりません」と言うと、角が立ちます。相手は自分の要望が軽んじられたと感じ、次からは上長経由で言ってくるようになります。
かわりにこう返します。
「入れられます。いまの並びだと8番目になります。上の4つは今回の目的に直接効くものなので、これより先に持ってくるとしたら、どれかを下げる必要があります。一緒に見てみませんか。」
この形にすると、判断が相手に戻ります。そして多くの場合、上の4つを見た相手は「じゃあ今回は後でいいです」と言います。断ったのではなく、相手が選んだ形になります。
この考え方は3.1で書いた「増えたぶんを見えるようにする」と同じです。バックログは、それを一覧の形で常時やっている道具だと考えてください。
消さずに、残す
下に置いた要望を、一覧から削除しないでください。これは相手のためであると同時に、自分のためでもあります。
相手から見ると、消された要望は「なかったことにされた」のと同じです。次からは要望を出さなくなり、代わりに直前になって言ってきます。4.2で書いた「遅く現れる人」を、自分で作ってしまうことになります。
自分から見ると、下に溜まった要望の一覧は次のプロジェクトの入口です。今回できなかったことが優先順に並んでいれば、次期の企画はそこから始められます。ゼロから要望を集め直す必要がありません。
「検討します」を、置き場所に変える
日本の職場では、断りにくい要望に「検討します」と答える場面が多くあります。この言葉は、言った側は断りのつもりでも、聞いた側は前向きな返答として受け取ることがあり、あとで揉めます。バックログがあれば、この曖昧さを消せます。「バックログの8番に入れました」と言えば、どこにあるかがはっきりします。断ってもいないし、約束もしていない。実務上、これがいちばん扱いやすい状態です。
アジャイルでなくても使えます
バックログという言葉はスクラムから広まったので、「アジャイルの道具」と思われがちです。実際には、進め方に関係なく使えます。
ウォーターフォールで進めているプロジェクトでも、要望は途中から出てきます。それを一列に並べておくことに、方法論は関係ありません。むしろ日本の現場では、ウォーターフォールのプロジェクトほどバックログが要ります。要件を確定させたあとに来た要望をどう扱うかが、いちばん揉めるところだからです。
ひとつだけ注意があります。日本語で「バックログ」と検索すると、同名の製品の情報が多く出てきます。この記事で言うバックログは、製品名ではなく優先順に並べた一覧という考え方のことです。
兼任で回している場合
ひとりで複数の案件と定常業務を抱えている場合、バックログはプロジェクト単位ではなく自分単位で持つほうが実用的です。案件Aの3番目と案件Bの1番目のどちらを先にやるか、という判断が毎日発生するからです。
そして、その一覧を上長に見せてください。「いまこの順番でやっています」と示せると、新しい仕事を振られたときに「では、どれを下げますか」という会話ができます。一覧がないと、この会話は「忙しいです」で終わり、結局は全部引き受けることになります。
ABではこう見えます
AB Projectsでは、タスクを並べ替えることでそのままバックログになります。上から順に並べておき、着手するものをボードへ動かす。同じタスクなので、二重に管理する必要がありません。
今回やらないと決めたものも、同じ一覧の下に置いたままにできます。3.1で書いた「次期にまわす」の置き場所が、ここになります。次のプロジェクトを立ち上げるとき、この下側を上から読み直すところから始められます。
このページで使った言葉
- バックログ
- やること・やるかもしれないことを、優先順に一列に並べた一覧です。上から順に着手します。くわしく →
- 優先順位
- どれを先にやるかの順番です。高・中・低ではなく一列にすると、同率1位が作れなくなります。くわしく →
- スコープ
- 今回やること・やらないことの範囲です。バックログの点線から上がスコープにあたります。くわしく →
- スクラム
- 短い固定の期間で区切って進める、アジャイルの代表的な進め方です。バックログという言葉はここから広まりました。くわしく →
- 仕様変更
- 決まっていた内容を変えることです。バックログがあると、変更ではなく順番の議論として扱えます。くわしく →
- 兼任
- 本業を持ったまま別の役割も担うことです。この場合、バックログは案件単位ではなく自分単位で持つと実用的です。くわしく →
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3.1 スコープ管理
要望を4つの箱に振り分ける、その前段の考え方。
5.2 カンバンボードの使い方
上から取ったものを、どう流していくか。
5.4 アジャイルとウォーターフォール
バックログという言葉が生まれた背景。