5.4 アジャイルとウォーターフォールの選び方

5.4 アジャイルとウォーターフォールの選び方

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アジャイルとウォーターフォールは、思想ではなく条件で選びます

この2つは、しばしば信条の対立として語られます。実務ではそうではありません。どちらが向くかは、プロジェクトの側の条件で決まります。そして日本の現場では、ひとつのプロジェクトの中で両方が混ざっているのがふつうです。

はじめてこのページに来た方へ このページは全10章のチュートリアルの5.4です。管理のフェーズと工程の違いは2.0、道具の使い分けは5.0で扱っています。専門用語はすべてページ下部で説明しています。

この記事の要点

  • 向き不向きは、5つの条件——つくるもの・法令・相手の関与・契約の形・やり直す費用——で判断できます。
  • いちばん見落とされるのが契約の形です。請負契約のまま反復型で進めると、変更のたびに費用の議論になります。
  • 日本では基幹系はウォーターフォール、周辺は反復型という混在がふつうです。分けて構いません。
  • 進め方が変わっても、管理の4区間(立ち上げ・計画・実行・終結)はなくなりません。
  • 「アジャイルだから計画を立てない」は誤解です。計画の粒度と更新頻度が違うだけです。

5つの条件で判断する

どちらの進め方が向くかは、次の5つを見れば、ほぼ決まります。3つ以上が同じ側なら、その進め方です。

ウォーターフォールと反復型のどちらが向くかを決める5つの条件 つくるものが最初からほぼ決まっているならウォーターフォール、使ってみないと分からない部分があるなら反復型。法令や監査への対応が必須で期日も動かないならウォーターフォール、強い制約がないなら反復型。相手が節目にしか出てこられないならウォーターフォール、毎週意思決定に参加できるなら反復型。契約が請負ならウォーターフォール、準委任なら反復型。やり直す費用が高いならウォーターフォール、安いなら反復型。 条件 ウォーターフォール向き 反復型(アジャイル)向き つくるもの 最初からほぼ決まっている 使ってみないと分からない部分がある 法令・監査 対応が必須で、期日も動かない 強い制約はない 相手の関与 節目にしか出てこられない 毎週、意思決定に参加できる 契約の形 請負(成果物と金額を先に確定) 準委任(期間と体制で契約) やり直す費用 高い(本番移行、物理的な設置) 安い(画面、業務ルール、運用) 5つのうち3つ以上が同じ側なら、その進め方です。混ざっている場合は、部分ごとに分けて構いません。 日本の現場では、基幹系はウォーターフォール、周辺の画面や業務ルールは反復型、という混在がふつうです。 とくに4行目の契約の形は見落とされがちですが、請負契約のまま反復型で進めると、変更のたびに 「これは追加費用か」の議論になり、実務が止まります。進め方と契約は、セットで決めてください。
左の列を上から順に自分の案件に当てはめてください。5行のうち3行以上が同じ側なら、その進め方が向いています。混ざっている場合は、無理に統一せず、部分ごとに分けるのが実務的です。

契約の形が、いちばん見落とされます

4行目に注目してください。日本の現場でアジャイルがうまくいかない理由の多くは、思想でも文化でもなく、契約の形が合っていないことです。

請負契約は、成果物と金額を先に確定させる契約です。だから途中で作るものが変わると、「これは当初の範囲内か、追加費用か」という議論が必ず発生します。反復型は「作りながら決める」進め方なので、この議論が毎スプリント起きることになります。実務が止まります。

準委任契約は、期間と体制に対して払う契約です。何を作るかが途中で変わっても、契約上の問題になりません。だから反復型と相性がいい。

つまり、進め方を選ぶ前に契約の形が決まっているなら、進め方はほぼ決まっています。逆に、これから契約するなら進め方と契約はセットで決めてください。「アジャイルでやりたい」と言いながら請負で契約すると、現場が板挟みになります。

日本では、混在がふつうです

IPAが2025年に日米独の企業を対象に行った調査では、IT部門でアジャイルを活用している企業の割合は、日本が65.5%、米国が89.8%、ドイツが88.8%という結果でした(調査は2025年2〜3月、日本1,535社ほか。設問の詳細な文言までは確認できていないため、水準の目安として読んでください)。

この差をどう読むかですが、「日本が遅れている」と結論づけるのは早いと思います。日本のシステム開発は基幹系の比率が高く、基幹系は5つの条件のほとんどがウォーターフォール側に倒れます。要件が固まっていて、法令対応があり、相手は節目にしか出てこられず、請負契約で、本番移行のやり直しは高い。条件から見て、妥当な選択である場合が多いのです。

実務的に大事なのは、どちらかに統一することではありません。ひとつのプロジェクトの中で、部分ごとに分けることです。会計連携や法定帳票はウォーターフォールで、社員が使う画面や業務ルールは反復型で。5つの条件は、部分ごとに違う答えを出します。

「アジャイルなので計画は立てません」は誤解です

反復型でも、いつ終わるのか・いくらかかるのかは聞かれます。答えられなければ、決裁は下りません。違うのは計画の粒度と更新の頻度だけです。全体の見通しは粗く持ち、直近の2〜4週間だけを細かく決めて、毎回見直す。これは3.0で書いた「近いところは細かく、遠いところは粗く」と同じことを、より短い周期でやっているだけです。

進め方が変わっても、変わらないもの

2.0で書いたとおり、管理の4区間——立ち上げ・計画・実行・終結——は、進め方が変わってもなくなりません。

  • 何のためにやるのかは、どちらでも決めます。
  • 終わったと言える条件も、どちらでも要ります。
  • 誰が決める人かは、反復型のほうがむしろ重要です。毎週判断が必要になるからです。
  • 検収と引き継ぎは、どちらでも発生します。

アジャイルを「決めなくていい進め方」と理解すると、必ず失敗します。むしろ決める回数が増える進め方です。だから相手が毎週意思決定に参加できるかどうかが、3行目の条件として効いてきます。

現実的な折衷案

日本の組織で、いきなり反復型に移行するのは難しい場面が多くあります。稟議も、契約も、社内の会議体も、ウォーターフォールを前提に作られているからです。

そこで実務的に取りやすいのが、次の折衷です。

  • 対外的にはウォーターフォールの工程で報告し、内部は反復で回す。報告する節目は工程で切り、その中を2週間単位で回します。相手の会議体を変えずに済みます。
  • 要件定義だけを準委任にする。作るものが決まっていない段階を準委任、決まってからを請負にする形は、日本でも一般的になってきています。
  • 試作を先に作る。画面や帳票だけ先に見せて反応をもらう。これだけでも、後半の手戻りがかなり減ります。

どれも「アジャイル導入」ではありませんが、1.2で見た手戻りの費用曲線を左に寄せるという意味では、同じ効果があります。名前より、早く気づけるかどうかです。

ABではこう見えます

AB Projectsでは、同じプロジェクトの中に工程で切ったガントと、日々回すボードの両方を持てます。混在した進め方をしていても、報告用の見え方と実務用の見え方を別々に作る必要がありません。

反復型で回す部分は、バックログを上から取ってボードに流す形になります。ウォーターフォールで進める部分は、ガント上で依存関係を引いた棒として扱います。どちらも同じタスクなので、全体の見通しはひとつの場所で確認できます。

このページで使った言葉

ウォーターフォール
工程を上流から下流へ順に進める方式です。前の工程が固まっていることを前提にするため、戻ると手戻りになります。くわしく →
アジャイル/反復型
短い周期で作って見せて直す進め方の総称です。計画を立てないのではなく、粒度と更新頻度が違います。くわしく →
スクラム
短い固定期間(スプリント)で区切って進める、アジャイルの代表的な進め方です。くわしく →
請負契約
成果物の完成に対して報酬を払う契約です。作るものと金額を先に確定させるため、途中の変更が費用の議論になります。くわしく →
準委任契約
作業そのものに対して報酬を払う契約です。期間と体制で契約するため、作るものが途中で変わっても扱えます。くわしく →
手戻り
先の工程に進んだあとで前の工程に戻ってやり直すことです。進め方の選択は、これをどう減らすかの選択でもあります。くわしく →

2.0 プロジェクトの進め方

進め方が変わっても、なくならない4つの区間。

5.3 バックログの使い方

反復型で回す部分の、順番の決め方。

5.5 タスク管理ツールの選び方

どちらの進め方でも、道具に求めるものは同じです。


公開日: 2025-01-05 最終更新日: 2026-07-28

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