第5章 5.4 ← 5.0 道具の選び方
アジャイルとウォーターフォールは、思想ではなく条件で選びます
この2つは、しばしば信条の対立として語られます。実務ではそうではありません。どちらが向くかは、プロジェクトの側の条件で決まります。そして日本の現場では、ひとつのプロジェクトの中で両方が混ざっているのがふつうです。
この記事の要点
- 向き不向きは、5つの条件——つくるもの・法令・相手の関与・契約の形・やり直す費用——で判断できます。
- いちばん見落とされるのが契約の形です。請負契約のまま反復型で進めると、変更のたびに費用の議論になります。
- 日本では基幹系はウォーターフォール、周辺は反復型という混在がふつうです。分けて構いません。
- 進め方が変わっても、管理の4区間(立ち上げ・計画・実行・終結)はなくなりません。
- 「アジャイルだから計画を立てない」は誤解です。計画の粒度と更新頻度が違うだけです。
5つの条件で判断する
どちらの進め方が向くかは、次の5つを見れば、ほぼ決まります。3つ以上が同じ側なら、その進め方です。
契約の形が、いちばん見落とされます
4行目に注目してください。日本の現場でアジャイルがうまくいかない理由の多くは、思想でも文化でもなく、契約の形が合っていないことです。
請負契約は、成果物と金額を先に確定させる契約です。だから途中で作るものが変わると、「これは当初の範囲内か、追加費用か」という議論が必ず発生します。反復型は「作りながら決める」進め方なので、この議論が毎スプリント起きることになります。実務が止まります。
準委任契約は、期間と体制に対して払う契約です。何を作るかが途中で変わっても、契約上の問題になりません。だから反復型と相性がいい。
つまり、進め方を選ぶ前に契約の形が決まっているなら、進め方はほぼ決まっています。逆に、これから契約するなら進め方と契約はセットで決めてください。「アジャイルでやりたい」と言いながら請負で契約すると、現場が板挟みになります。
日本では、混在がふつうです
IPAが2025年に日米独の企業を対象に行った調査では、IT部門でアジャイルを活用している企業の割合は、日本が65.5%、米国が89.8%、ドイツが88.8%という結果でした(調査は2025年2〜3月、日本1,535社ほか。設問の詳細な文言までは確認できていないため、水準の目安として読んでください)。
この差をどう読むかですが、「日本が遅れている」と結論づけるのは早いと思います。日本のシステム開発は基幹系の比率が高く、基幹系は5つの条件のほとんどがウォーターフォール側に倒れます。要件が固まっていて、法令対応があり、相手は節目にしか出てこられず、請負契約で、本番移行のやり直しは高い。条件から見て、妥当な選択である場合が多いのです。
実務的に大事なのは、どちらかに統一することではありません。ひとつのプロジェクトの中で、部分ごとに分けることです。会計連携や法定帳票はウォーターフォールで、社員が使う画面や業務ルールは反復型で。5つの条件は、部分ごとに違う答えを出します。
「アジャイルなので計画は立てません」は誤解です
反復型でも、いつ終わるのか・いくらかかるのかは聞かれます。答えられなければ、決裁は下りません。違うのは計画の粒度と更新の頻度だけです。全体の見通しは粗く持ち、直近の2〜4週間だけを細かく決めて、毎回見直す。これは3.0で書いた「近いところは細かく、遠いところは粗く」と同じことを、より短い周期でやっているだけです。
進め方が変わっても、変わらないもの
2.0で書いたとおり、管理の4区間——立ち上げ・計画・実行・終結——は、進め方が変わってもなくなりません。
- 何のためにやるのかは、どちらでも決めます。
- 終わったと言える条件も、どちらでも要ります。
- 誰が決める人かは、反復型のほうがむしろ重要です。毎週判断が必要になるからです。
- 検収と引き継ぎは、どちらでも発生します。
アジャイルを「決めなくていい進め方」と理解すると、必ず失敗します。むしろ決める回数が増える進め方です。だから相手が毎週意思決定に参加できるかどうかが、3行目の条件として効いてきます。
現実的な折衷案
日本の組織で、いきなり反復型に移行するのは難しい場面が多くあります。稟議も、契約も、社内の会議体も、ウォーターフォールを前提に作られているからです。
そこで実務的に取りやすいのが、次の折衷です。
- 対外的にはウォーターフォールの工程で報告し、内部は反復で回す。報告する節目は工程で切り、その中を2週間単位で回します。相手の会議体を変えずに済みます。
- 要件定義だけを準委任にする。作るものが決まっていない段階を準委任、決まってからを請負にする形は、日本でも一般的になってきています。
- 試作を先に作る。画面や帳票だけ先に見せて反応をもらう。これだけでも、後半の手戻りがかなり減ります。
どれも「アジャイル導入」ではありませんが、1.2で見た手戻りの費用曲線を左に寄せるという意味では、同じ効果があります。名前より、早く気づけるかどうかです。
ABではこう見えます
AB Projectsでは、同じプロジェクトの中に工程で切ったガントと、日々回すボードの両方を持てます。混在した進め方をしていても、報告用の見え方と実務用の見え方を別々に作る必要がありません。
反復型で回す部分は、バックログを上から取ってボードに流す形になります。ウォーターフォールで進める部分は、ガント上で依存関係を引いた棒として扱います。どちらも同じタスクなので、全体の見通しはひとつの場所で確認できます。
このページで使った言葉
- ウォーターフォール
- 工程を上流から下流へ順に進める方式です。前の工程が固まっていることを前提にするため、戻ると手戻りになります。くわしく →
- アジャイル/反復型
- 短い周期で作って見せて直す進め方の総称です。計画を立てないのではなく、粒度と更新頻度が違います。くわしく →
- スクラム
- 短い固定期間(スプリント)で区切って進める、アジャイルの代表的な進め方です。くわしく →
- 請負契約
- 成果物の完成に対して報酬を払う契約です。作るものと金額を先に確定させるため、途中の変更が費用の議論になります。くわしく →
- 準委任契約
- 作業そのものに対して報酬を払う契約です。期間と体制で契約するため、作るものが途中で変わっても扱えます。くわしく →
- 手戻り
- 先の工程に進んだあとで前の工程に戻ってやり直すことです。進め方の選択は、これをどう減らすかの選択でもあります。くわしく →
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反復型で回す部分の、順番の決め方。
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