第2章 2.1 ← 2.0 プロジェクトの進み方
立ち上げでやることは、資料を厚くすることではありません
決裁がおりました。ここから何をすればいいのか。多くの人がまず企画書を書き足そうとしますが、この時期にやるべきことはもっと少なく、もっと地味です。A4一枚に収まる5つの欄を、関係者が同じ意味で読める言葉にすること。それだけで、後半に起きるトラブルの多くが消えます。
この記事の要点
- 立ち上げで埋める欄は5つです。目的・終わりの条件・決める人・関わる人・やらないこと。
- いちばん効くのは「やらないこと」です。書いていない範囲は、相手の頭の中では「やること」に入っています。
- 「決める人は誰か」を最初に確認しないと、判断が必要になった場面で全員が持ち帰ります。
- 決裁からキックオフまでの空白期間は、誰も舵を握っていない時間になりがちです。
- キックオフの目的は説明ではなく、5つの欄を全員で読み合わせて食い違いを見つけることです。
埋めるのは5つの欄だけです
立ち上げの成果物は、分厚い企画書ではありません。次の5行が、関係者全員に同じ意味で読めることです。
目的は、達成したい「状態」で書きます
目的の欄に「勤怠システムを刷新する」と書いてしまう人は多いのですが、これは目的ではなく手段です。手段が目的の欄に入っていると、判断に使えません。
使える書き方は、達成したい状態で書くことです。「月末の勤怠締めにかかっている総務3人×3日の作業を、1人×1日にする」。ここまで書けていれば、途中で「この機能も入れますか」と聞かれたときに答えが出ます。締め作業が短くなるなら入れる、ならないなら入れない。目的が判断の道具になります。
反対に「刷新する」しか書いていないと、何を入れても目的に反しません。だから全部入り、結果としてスコープが膨らみます。目的が曖昧なプロジェクトは、必ず大きくなります。
決める人を、最初に特定してください
実務でいちばん見落とされるのがこの欄です。そして、いちばん高くつきます。
判断が必要な場面は必ず来ます。連携方式をどちらにするか、この要望を入れるか、期日を延ばすか予算を積むか。そのとき誰に持っていけば決まるのかが分かっていないと、関係者が全員そろっている会議でも何も決まりません。全員が「社内で確認します」と言って持ち帰り、二週間が過ぎます。
確認しておくことは2つです。ひとつは、予算と最終判断を持っている人が誰か。もうひとつは、その人がどのくらいの金額・期間までなら即断できるのかです。後者を聞いておくと、稟議に回すべき案件かどうかを事前に判断できます。「これは稟議が要りますか」を毎回聞かずに済むだけでも、一週間単位で違います。
「決める人」と「詳しい人」は違います
現場でいちばん詳しい人は、たいてい決める人ではありません。逆に決める人は、細部を知らないことが多くあります。この2人を混同すると、詳しい人に判断を求めて答えが出ず、決める人に細部を説明して時間が溶けます。体制図を見るときは肩書きではなく、「この人は決めていい人か、持ち帰る人か」を確認してください。
効くのは「やらないこと」の欄です
5つのうちどれかひとつだけ埋めるなら、これを選んでください。やることのリストは、放っておいても誰かが書きます。やらないことのリストは、意識して書かないと存在しません。
書き方は簡単で、相手が期待していそうなことのうち、今回は入らないものを並べるだけです。「他拠点への展開は今回の対象外」「既存データの過去3年分より前は移行しない」「スマートフォンからの利用は次期」。
この作業には副次的な効果があります。書き出して見せると、たいてい一件は「え、それは入る前提でした」という反応が返ってきます。それが今この瞬間に出てくることに意味があります。同じ食い違いは、書かなければ受け入れテストの場で出てきます。
決裁からキックオフまでの空白
日本の組織では、決裁がおりてからキックオフまでに数週間空くことが珍しくありません。要員の調整、相手先との日程調整、契約手続き。この期間、プロジェクトは「始まっているが誰も動かしていない」状態になります。
ここは短くできますし、短くする価値があります。キックオフを待たずにできることが、いくつもあるからです。
- 関わる人の一覧をつくる。ひとりで書けます。書いてみると、確認すべき部署がいくつか出てきます。
- やらないことの案を書く。これもひとりで書けます。キックオフでこれを見せると、会議が説明会ではなく確認の場になります。
- 相手先の担当者に、事前に一度話しておく。いわゆる根回しですが、政治というより段取りです。初対面がキックオフの場だと、その場では誰も本音を言いません。
キックオフの目的は、説明ではありません
キックオフを「プロジェクトの説明会」にしてしまうと、時間の割に得るものが少なくなります。資料を読み上げ、全員がうなずき、質問が出ずに終わる。それで食い違いが消えたわけではなく、単に表に出ていないだけです。
目的は、5つの欄を全員で読み合わせて、食い違いを見つけることです。とくに「終わったと言える条件」と「やらないこと」を声に出して読み、「これで合っていますか」と聞いてください。ここで出る違和感が、いちばん安い違和感です。
そして最後に、議事録に残してください。日本の実務では議事録が合意の範囲を確定する文書として機能します。5つの欄を議事録に書き、参加者に共有した時点で、それは共通の前提になります。
ABではこう見えます
AB Projectsでは、この5つの欄をプロジェクトWikiの最初の1ページに置くのが実用的です。あとから参加した人が最初に読む場所になり、半年後に経緯を確認する場所にもなります。タスクからこのページを参照しておけば、作業をしている人がいつでも目的に戻れます。
「決める人」と「関わる人」は、プロジェクトのメンバーとして登録しておくと一覧として機能します。登録されていない人が終盤に現れたら、それは立ち上げの洗い出しが漏れていたということで、次回のふりかえりの材料になります。
このページで使った言葉
- スコープ
- そのプロジェクトでやること・やらないことの範囲です。「やらないこと」を書くほうが効きます。くわしく →
- ステークホルダー
- 結果に影響を受ける人、または影響を与えられる人です。関係者とも呼びます。洗い出しで漏れた人は、たいてい終盤に現れます。くわしく →
- 責任者/スポンサー
- やると決め、予算を持ち、現場では決められないことを決める立場の人です。この人が曖昧だと判断のたびに止まります。くわしく →
- 根回し
- 会議の前に個別に話をしておき、あらかじめ合意をつくっておくことです。会議が確認の場である以上、これは段取りの一部です。くわしく →
- 議事録
- 打ち合わせの記録ですが、日本の実務では合意内容を確定する文書として扱われます。くわしく →
- 体制
- 誰が何の役割で参加しているかの構成です。確認すべきは名前ではなく「決めていい人か、持ち帰る人か」です。くわしく →
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3.1 スコープの決め方
「やらないこと」の書き方を、もう一段くわしく。
4.2 関係者との付き合い方
洗い出したあと、誰に何をどう伝えるかの設計。
2.2 計画
5つの欄が埋まったあと、どう作業に落とすか。