タスク分離とセッション切り替えとは?|MCP入門 5.2|AI応答の誤りを防ぐ文脈設計

5.2 タスク分離とセッション切り替え

ユーザーが生成AIとやり取りを行う際、1つのセッション内で異なる目的を持つ会話やタスクを並行して進めるケースは少なくありません。 たとえば、午前中は「経費精算に関する質問」をし、午後には「顧客への提案書を作成する」といったように、1人のユーザーが時間の中で複数の意図や目的をもってAIと対話することは日常的に起こり得ます。

このような場合、生成AIはどの文脈に基づいて応答すべきかを見失い、意図にそぐわない回答を返してしまうことがあります。そこで重要になるのが、タスクごとの文脈を分離し、必要に応じてセッションを切り替える設計です。

文脈混在のリスクとは

文脈の混在は、モデルの誤解や曖昧な応答の原因になります。 たとえば、「顧客Bの見積もりをください」という発話の直前に、顧客Aの話題が続いていた場合、AIはBではなくAの情報を引きずってしまうかもしれません。

特に業務利用においては、ミスの許されない文脈管理が求められます。MCPではこのようなケースに備え、「今扱っているのはどのタスクか」「どのセッションの文脈か」を明示的に識別・切替する仕組みを提供します。

セッションIDとタスクタグの活用

MCPでは、会話に付随する「セッションID」や「タスクタグ」といったメタデータを用いて、文脈を構造的に管理します。 ユーザーが発話をするたびに、どのセッションに属する発話か、どのタスクの文脈に基づくかをシステム側で判断・分離することで、混在を防ぐことができます。

たとえば、セッションID「s-1234」は「提案書作成」用、ID「s-4567」は「営業履歴の確認」用、といったように、 一人のユーザーに複数のセッションが紐づく構造を持たせることが可能です。

ユーザー体験を損なわない切り替え方

重要なのは、これらの切り替えをユーザーにとって自然な体験として実現することです。 いちいち「セッションを切り替えますか?」と尋ねるのではなく、発話の意図やトピックの変化を自動で検出し、システム内部でスムーズにセッションを切り替えることで、ユーザーは「意識せずに複数タスクをこなせる」状態になります。

セキュリティと誤応答の予防

タスクを分離し、セッション単位で履歴を管理することは、情報漏洩や誤送信のリスクを抑えるうえでも重要です。 たとえば、A社の商談履歴をB社の見積もり回答に誤って反映する――といったミスは、セッション分離がなされていない構成で発生しやすい典型例です。

タスクごとの文脈分離とセッション切り替えは、MCPの核となる概念の1つです。 単なる履歴の切り貼りではなく、ユーザーの意図やトピックの流れを理解し、それに応じて文脈の「境界」を設計することで、 AIとの対話をより自然かつ安全なものにしていくことが可能になります。


次のセクションでは、こうしたセッション制御に加え、RAG(検索補助生成)構造において、取得した情報とモデルの内部指示をどのように統合するかという課題について、具体的に考えていきます。 → 5.3 ドキュメントベース質問応答(RAG)でのContext設計へ進む

公開日: 2025-03-24
最終更新日: 2025-05-14
バージョン: 2

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。

チーム

任 弘毅

株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。