ドキュメントベース質問応答(RAG)でのContext設計とは?|MCP入門 5.3|情報の構造化で精度と説明力を高める方法

5.3 ドキュメントベース質問応答(RAG)でのContext設計

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、外部のナレッジベースや文書データベースから関連情報を検索し、それを生成AIに与えることで、より正確かつ根拠のある回答を生成する手法です。 近年、多くの企業や製品で活用が進んでいますが、その応答品質は「どのように情報を文脈として渡すか」に大きく左右されます。

このセクションでは、MCPの考え方を用いて、RAG構造におけるContext設計をどのように行うべきかを、具体的な観点から整理します。

RAGの構造と課題

RAGは、①検索フェーズ(Retrieval)と②生成フェーズ(Generation)の2段階で構成されます。 検索で取得した複数の文書を、そのままプロンプトに貼り付けてモデルに渡すだけでは、以下のような課題が発生します:

  • 冗長な情報が多く、モデルが焦点を見失う
  • 文書同士が矛盾する内容を含み、応答が曖昧になる
  • 文書の順番や長さによって応答内容が不安定になる

これらの課題を解決するためには、取得した情報を「単なる補助材料」ではなく、「意味のある文脈」として構成し直す必要があります。

Context設計の4つのポイント

1. スロット化による構造的挿入

文書をそのまま投げ込むのではなく、「ドキュメントの要約」「該当セクション」「信頼度」などをスロット化し、テンプレート内に明示的に埋め込むことで、モデルが理解しやすい形で文脈を整理できます。

2. 情報の優先順位づけ

取得した複数の文書を単純に並列に扱うのではなく、関連性スコアや出典の信頼度に応じて、優先度の高いものを先に挿入し、必要に応じて低スコアの情報は省略・要約するという方針が重要です。

3. プロンプト内での役割明示

単に「参考文献」として情報を貼るのではなく、「以下はA社のFAQからの抜粋です」「以下は製品マニュアルの該当箇所です」など、情報の意味づけを明示することで、モデルの文脈解釈の正確性が向上します。

4. 質問との関連度に基づくフィルタリング

検索結果に含まれる文書の中には、質問と直接関係のないものも多く含まれる可能性があります。 単純なキーワード一致ではなく、「質問の意図」に基づいたフィルタリングや再ランキングが不可欠です。

RAGにおけるMCP設計の利点

MCPの構造に則ることで、RAGは以下のような点で強化されます:

  • 情報の構造化により、モデルが理解しやすく、応答が安定する
  • プロンプトテンプレートの共通化により、再利用可能な設計になる
  • 出典情報の明示で、説明責任のあるAI応答を実現できる

RAGは高性能な質問応答システムを構築するための強力なアプローチですが、その力を最大限に発揮するには「どのように検索結果を文脈化するか」が鍵となります。 MCPの視点から、文書の構造化・スロット化・役割づけ・優先順位づけを丁寧に設計することで、より精度の高い、安全な対話システムを構築することが可能になります。


次のセクションでは、さらに一歩進めて、複数のツールやエージェントが連携する高度なユースケースにおいて、MCPがどのように文脈を管理・伝達できるかを考察します。 → 5.4 Tool Use / Multi-agent systemでのMCP適用例へ進む

公開日: 2025-03-25
最終更新日: 2025-05-14
バージョン: 2

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。

チーム

任 弘毅

株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。