第2章 — 確率、トークン、テキスト: 次の単語を当てるゲーム

公開日: 2026-02-19 最終更新日: 2026-06-07 バージョン: 4

第2章 — 確率、トークン、テキスト

LLM Primer I: How Generative AI Works を章ごとに紹介するシリーズ、第2回です。前回(第1章)では、LLM の正体を「テキストの次に来るものを推測する装置」として整理しました。今日はその意味を、もう一段具体的に詰めていければと思います。


モデルが何かを見るより前に、目に映っているのは「数字」

多くのLLM入門が見過ごしてしまうのですが、モデルはあなたの書いた「言葉」を一度も見ていません。プロンプトがモデルの最初の層に届くまでに、テキストは「トークン」と呼ばれる小さな単位に切り分けられ、それぞれが数値に置き換えられているからです。

トークンは多くの場合、単語より短い単位です。「the」や「language」のような頻出語は1トークンに、長い単語や珍しい単語はもっと小さな部品に分かれます。たとえば「tokenization」は「token」+「ization」に分けられたりする。LLMの利用料金が単語数ではなくトークン数で測られるのも、同じ意味の文章を別の言語で書くと処理コストが2〜3倍に跳ねることがあるのも、根っこは同じです。

ひとことで言うと: トークンは、言語モデリングにおける「LEGOブロック」のようなもの。よく登場する語は1ブロックで済み、珍しい語は小さなブロックの組み合わせで作る。モデルは常に、このブロックを数値で表した列だけを相手にしています。

切り分けの仕組み — Byte Pair Encoding、WordPiece、その他いくつか — は、本書で丁寧に取り上げました。LLMのファミリーごとに採用しているスキームが違うので、コードや数式記号、非ラテン文字を扱うときに出力が思わぬ場所で崩れることがある。その理由の多くは、ここに行き着きます。

結局のところ「当てっこゲーム」

トークン化さえ済めば、モデルがやっていることは拍子抜けするほど単純に書けます。考えうるすべての「次のトークン」に、確率の分布を割り振ること。それだけです。「答え」を出すのでも、「正しいトークン」を選ぶのでもなく、「ここまでを踏まえると、それぞれの候補はどれくらい確からしいか」を並べる、というのが本来の仕事です。

「フランスの首都は」と入力すれば、次のトークンが「Paris」になる確率はかなり高くなり、「は」「位置する」「現在」などにも、もう少し控えめな確率が割り当てられます。モデルはそこから1つを選び — この選び方は「temperature」と呼ばれる設定の影響を受けます — 列に書き加える。そしてまた最初から、また、また。1トークンずつ進んでいきます。

本当に、それだけです。LLMがこれまで生み出してきたエッセイも、翻訳も、コードも、詩も、すべてはこのループが回り続けた結果でしかありません。計画もなければ、全体の設計図もなく、その都度「次の妥当なトークン」を出す以外の目的を持っていない。

第2章では、そんな単純な仕組みで「なぜ動いてしまうのか」にも紙幅を割きます。純粋な次トークン予測が、十分なスケールに乗ったとたんに「推論のように見えるもの」を生み出してしまう — これは決して自明な現象ではなく、現代AIにおける最も興味深い経験的発見のひとつかと思います。本書ではその理由を、丁寧に追いかけてまいります。

古いやり方と、新しいやり方

ニューラルネットワークが主役になる前、言語モデルはひたすら「数えて」いました。次の単語を予測したいなら、直前の2〜3語を見て、訓練コーパスの中でそれらが現れた場所を全部探し、「だいたい何が続いたか」を集計する。これでも、それなりに動きました。文法的に通る文章だって、ときどきは生成できる。とはいえ、致命的な問題がふたつあったのです。

ひとつ目はスパース性。コーパスがどれだけ大きくても、3語の組み合わせの大半は一度も登場しません。だからモデルは、ほとんどの並びについて「意見」を持ちようがない。ふたつ目は汎化です。「犬が猫を追いかけた」と「狼がウサギを追いかけた」が同じ構造をしていることは、人間ならひと目で分かる。でも、数えるだけのモデルにとっては、まるで関係のない別物。一方から得た知見は、もう一方にはひとつも転用できません。

ニューラル言語モデルは、組み合わせを暗記する代わりにパターンを学ぶことで、両方を一気に解きました。各トークンを数値の列 — Embedding — に写像して、その数値が列を通じてどう変換されるかを学ぶ。だから、似た構造の文には似た内部表現が立ち上がる。たとえ、モデルがそのどちらの文も見たことがなかったとしても、です。

ひとことで言うと: 「数える」から「パターンを学ぶ」への移行は、自然言語処理の歴史の中でいちばん重要な発想の転換かと思います。今のLLMができて、以前のシステムにできなかったことの大半は、ここに根を持っています。

「どれくらいうまく当てているか」を測る

第2章の締めは、よく耳にする2つの指標 — エントロピーとパープレキシティ。本書がここで時間をかけるのは、誤解されやすい数値だからです。式を見たことがある方には申し訳ないのですが、ごく短く言えば、こうなります。

エントロピーは「不確かさ」の量。モデルが「次に来るもの」に確信を持っていればエントロピーは低く、迷っていれば高くなります。パープレキシティは、その不確かさを、モデル同士で比べやすい数値に変換したもの。低いほど、モデルは見ているテキストに対して「あまり驚いていない」、つまり予測しやすい状態にある、ということです。

式を覚えていなくても、このイメージだけで読めるようになります。「モデルAはこのベンチマークでパープレキシティ4.2」と書いてあれば、頭の中で「位置あたり、それなりに筋のいい次トークンを4つくらい抱えながら推測している、まあまあ自信のある状態」と訳せばいい。50になっていれば、相当迷っている。これだけで、ほとんどの研究論文は読めるようになります。

第2章を通して、得られるもの

第2章を読み終えるころには、LLMの入出力ループを表すメンタルモデルが、実用的なレベルで手元に残ります。テキストを入れる、トークンに変える、確率を計算する、次のトークンをサンプリングする、繰り返す。なぜそのループが数学的に扱える形なのか、どこに限界があるのかも見えてくる。そして本書の残りや、ほとんどのLLM研究を読み進めるための語彙が一通り整います。

ここから先の章では、自然と次の問いが立ち上がります。モデルは「どうやって」その確率を作っているのか、内部で何が動いているのか。その話は、明日からです。


次回 — 第3章: 言語のためのニューラルネットワーク。 実際の作業をしている計算機構にズームインしてまいります。ニューラルネットワークはどんな組み立てなのか、過去の設計はなぜ言語に向かなかったのか、そして「数十億のパラメータを学習させる」とは何をしていることなのか。

全体像を押さえたい方へ: 本書では、この記事のすべてのトピックを図解と例題つきで丁寧に扱いました。トークン化スキームを比較した表や、次トークン予測ループの解説例も収録しています。Amazonで『LLM Primer I』を見る

下田 昌平
下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。