1.3 プロジェクトと定常業務の違い|5つの観点で比較

1.3 プロジェクトと定常業務の違い|5つの観点で比較

第1章 1.3 ← 1.0 プロジェクト管理とは

プロジェクトと定常業務は、能力ではなく性質が違います

定常業務で高い評価を受けてきた人が、プロジェクトを任されたとたんに苦戦することがあります。本人の能力が落ちたわけではありません。うまくいくための条件が、正反対に近いからです。この記事では、その違いを5つの観点で並べます。

はじめてこのページに来た方へ このページは全10章のチュートリアルの1.3です。プロジェクトそのものの定義は1.1で、なぜ管理が要るのかは1.2で扱っています。専門用語はすべてページ下部で説明しています。

この記事の要点

  • 定常業務は「決めたとおりに回すこと」で成功し、プロジェクトは「途中で決め直せること」で成功します。
  • 定常業務の失敗はその日のうちに分かり、プロジェクトの失敗は数か月後にまとめて表に出ます。
  • だからプロジェクトは、放っておくと必ず後回しになります。今日さぼっても、今日は誰も困らないからです。
  • 兼任でプロジェクトを持つ人にとって、これがいちばんの落とし穴です。
  • 対策は根性ではなく、時間の置き方です。週の中に固定した枠をつくるほうが確実に効きます。

5つの観点で並べてみます

どちらが優れているという話ではありません。会社の売上のほとんどは定常業務が生んでいますし、プロジェクトはその定常業務を変えるために存在します。ただ、うまく回すための条件が違います。

定常業務とプロジェクトの5つの違い 終わりについて、定常業務は来ないがプロジェクトにはある。くり返しについて、定常業務は前例と手順書があるがプロジェクトは初めてで手順を自分たちで決める。失敗の見え方は、定常業務がその日のうちに分かるのに対しプロジェクトは数か月あとにまとめて表に出る。うまくいく条件は、定常業務が決めたとおりに回すことであるのに対しプロジェクトは途中で決め直せること。後回しの誘惑は、定常業務は今日やらないと誰かが困るが、プロジェクトは今日やらなくても今日は誰も困らない。 定常業務 プロジェクト 終わり 来ない。ずっと続く ある。終わったと言える条件がある くり返し 前例がある。手順書がある 初めて。手順は自分たちで決める 失敗の見え方 その日のうちに分かる 数か月あとに、まとめて表に出る うまくいく条件 決めたとおりに回すこと 途中で決め直せること 後回しの誘惑 今日やらないと誰かが困る 今日やらなくても、今日は誰も困らない 最後の行が、兼任でプロジェクトを持つ人にとって一番やっかいなところです。定常業務をさぼれば その日のうちに誰かが困りますが、プロジェクトを一日さぼっても今日は何も起きません。だから 後回しにされ、数か月後にまとめて表に出ます。
左が定常業務、右がプロジェクトです。上の4行は性質の違いですが、いちばん下の行だけは性質ではなく力学です。この行があるせいで、上の4行を知っていても実際には手が回らない、ということが起きます。

「決めたとおりに回す」と「途中で決め直す」

定常業務では、手順を守ることが価値です。請求処理も、月次の締めも、問い合わせ対応も、決まったやり方があり、そのとおりにやれば品質が安定します。人によってやり方が変わることのほうが問題になります。

プロジェクトでは、これが逆になります。最初に立てた計画は、いちばん情報が少ない時点で立てたものです。進むにつれて、想定していなかったことが分かります。連携先の仕様が違った。相手の担当者が代わった。使ってみたら業務に合わなかった。このとき、当初の計画どおりに進めることは美徳ではありません。分かったことに合わせて計画を直せることのほうが価値です。

ここが、定常業務で評価されてきた人ほど戸惑うところです。計画を変えることが、失敗を認めることのように感じられます。実際には、変えないほうが失敗です。計画は約束ではなく、その時点での最善の見通しにすぎません。

失敗の見え方が、まったく違います

定常業務の失敗はすぐ分かります。請求書が出なければ、その日のうちに誰かが電話をかけてきます。フィードバックが速いので、勝手に上達します。

プロジェクトはそうなりません。要件定義でひとつ確認を飛ばしても、その日は何も起きません。翌週も、翌月も起きません。それが表に出るのはテスト工程で、しかもそのときには他の原因も5つ並んでいます。ベンダーが遅れた、担当者が抜けた、スコープが増えた、テストで想定外が出た——どの説明も本当なので、本当の起点にはたどり着きません。

この「フィードバックが遅くて、しかも他の原因と混ざる」という性質が、プロジェクトを経験だけでは上達しにくい仕事にしています。この点への対処は10.1で扱います。

兼任の人にとっての、本当の問題

ここからが、この記事でいちばん実務的な部分です。表のいちばん下の行——今日やらなくても、今日は誰も困らない——は、性質の違いではなく力学です。

朝、机に着いたとします。定常業務のほうには、返さないと止まる問い合わせがあり、今日締切の処理があり、隣の人が待っている確認があります。プロジェクトのほうには、来月の移行に向けて連携先に確認しておきたいことがあります。今日やらなくても、今日は誰も困りません。

この選択を20営業日くり返すと、1か月ぶんの遅れになります。しかもそれは、どこにも記録されません。あなたはずっと忙しく働いていて、定常業務は完璧に回っていて、それでもプロジェクトだけが動いていない、という状態になります。そして数か月後、まとめて表に出ます。

これは意志の弱さの問題ではありません。締切が近い順に手をつけるのは、人として合理的です。だから対策も、気合いではなく置き方で考えます。

兼任で回すときの、現実的な3つ

  • 週に1枠、固定する。「毎週水曜の朝いちばんの30分」のように、曜日と時刻を決めて予定表に入れてください。空いた時間にやろうとすると、空いた時間は永遠に来ません。
  • 次の一手だけ決めておく。その枠が来たときに「何をやろうか」から始めると、それだけで15分が消えます。前回の終わりに、次にやる1件を書いておいてください。
  • 止まっている理由を、外に出す。他部署の回答待ちで止まっているなら、それは自分の遅れではなく組織の遅れです。課題として登録して見えるようにしておかないと、最後にはあなたの遅れとして記録されます。

実際には、混ざっていることのほうが多い

ここまで2つを対比してきましたが、現場ではきれいに分かれていません。運用しながら改善する、保守の中に小さな改修が混ざる、というのが普通です。

迷ったときの判断は単純です。終わりが決まっているかどうかを見てください。「システムを安定して動かし続ける」は定常業務です。「来年3月までに新しいシステムへ移行する」はプロジェクトです。同じチームが両方を持っていても、扱い方は分けたほうが管理しやすくなります。

混ぜたまま扱うと、たいてい定常業務のやり方に引きずられます。手順を守ることが優先され、計画を直すという発想が出てこなくなり、期日だけが動いていきます。第2章で扱う「フェーズ」という考え方は、この混ざりを解くための道具でもあります。

ABではこう見えます

定常業務とプロジェクトを同じ場所で扱うと、片方がもう片方に埋もれます。AB Projectsでは、終わりのある仕事をプロジェクトとして分けて持てるので、「今週プロジェクトが何も進んでいない」ことが、それ自体として見えるようになります。忙しさに紛れて見えなくなるのが、いちばん危ない状態です。

兼任で回している方には、週次の固定枠をタスクとして置いてしまうことをおすすめします。期日つきで自分に割り当てておけば、他の仕事と同じ土俵に乗ります。予定表の中にない仕事は、実際には存在していないのと同じです。

このページで使った言葉

定常業務
毎日・毎月くり返される、終わりのない仕事です。ルーチンワーク、運用とも呼びます。手順が決まっていること自体が価値になります。くわしく →
兼任
本来の担当業務を持ったまま、別の役割も同時に担うことです。日本の中堅企業では、システム関連の仕事の多くが兼任で回されています。くわしく →
フェーズ
プロジェクトを性質の違う区間に分けたものです。区切りごとに「進めてよいか」を判断できるようにするための仕組みでもあります。くわしく →
課題
すでに起きていて、対処しないと進まない事柄です。まだ起きていない「リスク」とは区別して扱います。くわしく →
ひとり情シス
社内の情報システム業務を、実質ひとりで担っている状態です。中堅・中小企業で増えており、プロジェクトが兼任で回される典型的な背景になっています。くわしく →
運用
つくったものを、日々動かし続ける仕事です。プロジェクトが終わったあとに始まり、終わりがありません。くわしく →

2.0 プロジェクトの進み方

立ち上げから終結まで、フェーズという考え方で全体を見ます。

5.5 タスク管理ツール

定常業務とプロジェクトを、道具の上でどう分けて持つか。

9.1 はじめての人のQ&A

はじめてプロジェクトを任された人が、実際に困ることへの答えです。


公開日: 2024-12-05 最終更新日: 2026-07-28

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