7.3 ナレッジの残し方|半年後に聞かれる6つの質問

7.3 ナレッジの残し方|半年後に聞かれる6つの質問

第7章 7.3 ← 7.0 プロジェクトの終わらせ方

半年後に聞かれることは、決まっています

プロジェクトが終わって半年、必ず誰かが聞きに来ます。「なんでこの仕様になってるの?」。そのとき答えられる人がもういなければ、調べ直すか、諦めて触らないかのどちらかです。聞かれる質問は、実はかなり決まっています。先に置いておけます。

はじめてこのページに来た方へ このページは全10章のチュートリアルの7.3です。章全体は7.0、運用への引き渡しは7.1で扱っています。専門用語はすべてページ下部で説明しています。

この記事の要点

  • 半年後に聞かれる質問は6種類くらいで、それぞれ答えの置き場所が決まっています。
  • いちばん価値があるのは「決定の記録」です。何を決めたかより、なぜ決めたかを残してください。
  • 終結の直前にまとめて書こうとすると、必ず失敗します。進みながら少しずつ足します。
  • 書き残す目的は、他人のためだけではありません。半年後の自分が読みます。
  • ひとりで回している場合、書き残すことの価値は他のどんな現場よりも高くなります。

聞かれることと、置き場所

半年後に聞かれる質問と、その答えが置いてあるべき場所 「なんでこの仕様になってるの」には決定の記録(日付・理由つき)、「この項目、なんで使ってないの」にはやらないことの一覧、「あのとき、なんで別案にしなかったの」には検討して落とした案とその理由、「この作業、どうやるんでしたっけ」には手順書、「これ、誰に聞けばいいんですか」には連絡先の一覧、「次やるとしたら、何に気をつける」にはふりかえりの記録が対応します。最後のひとつだけ、誰も書きません。 半年後に聞かれること 答えが置いてあるべき場所 「なんでこの仕様になってるの?」 決定の記録(日付・理由つき) 「この項目、なんで使ってないの?」 やらないことの一覧 「あのとき、なんで別案にしなかったの?」 検討して落とした案と、その理由 「この作業、どうやるんでしたっけ」 手順書(画面つき) 「これ、誰に聞けばいいんですか」 連絡先の一覧(社内・ベンダー) 「次やるとしたら、何に気をつける?」 ふりかえりの記録 ←これだけ誰も書きません 上の5つは、必要になったときに困るので、たいてい誰かが書きます。いちばん下だけは、書かなくても 今日は誰も困りません。だから真っ先に飛ばされ、次のプロジェクトが同じところでつまずきます。 なお、これらを終結の直前にまとめて書こうとすると必ず失敗します。進みながら少しずつ足してください。
左の質問はどれも、実際に半年後に飛んでくるものです。右がその答えの置き場所で、6つとも別々の文書である必要はありません。プロジェクトWikiに6ページあれば足ります。

決定は、「なぜ」を書いてください

6つのうち、いちばん価値が高いのが最初の決定の記録です。そして、いちばん書き方を間違えやすいところでもあります。

「移行対象は過去3年分とする」だけ書いても、半年後には使えません。使えるのは、こう書いたときです。

「2月14日:移行対象を過去3年分とする。理由:それ以前のデータは文字コードが混在しており、整備に2か月かかると先方から回答があったため。全期間の移行が必要になった場合は、この整備工数が別途発生する。」

理由が書いてあると、その決定を見直せます。文字コードの問題が解消したなら、決定を変えていい。理由がなければ、変えていいのかどうか誰にも分かりません。だから触られないまま残ります。

決定の記録は、一件あたり2〜3行です。1週間に2〜3件も出れば多いほうなので、負担としては週に数分です。

落とした案も、書いておく

3つ目の「なんで別案にしなかったの?」は、改修のときに必ず出ます。そして、これに答えられないと同じ検討をもう一度やることになります。

書くのは、検討した案とその却下理由だけで足ります。「A案(既存システム改修):改修範囲が広く、見積り3か月・費用◯円。今回の予算では収まらないため見送り」。

この一行があると、半年後に予算が付いたときに、そこから再開できます。ないと、また比較検討から始まります。

終結の直前に、まとめて書こうとしない

ここがいちばん現実的な話です。終わってから書こうとすると、必ず失敗します。

理由は2つあります。忙しいから、というのがひとつ。もうひとつは、そのころには理由を忘れているからです。「なぜあの方式にしたんだったか」を3か月後に思い出すのは、想像以上に難しい。

だから、決めたその日に一行書きます。定例のあと、議事録を書くついでで構いません。4.3で書いたとおり議事録は当日中に出すものなので、そこに決定を書いておけば、あとで抜き出すだけになります。

読む相手は、半年後の自分です

「他人のために書く」と思うと、書く動機が続きません。実際にいちばん読むのはあなた自身です。半年後に改修の相談が来たとき、1年後に似た案件を任されたとき、3年後に監査で聞かれたとき。そのとき記録があれば、思い出す作業がゼロになります。ないと、当時の関係者を探すところから始まります。

ひとりで回している場合

3.3でも書きましたが、ひとり情シスや兼任で回している場合、書き残すことの価値は他のどんな現場よりも高くなります。

引き継ぐ相手がいないので、属人化は解消できません。だから目的が変わります。あなたが休んだ日に会社が止まらないこと、そして半年後のあなたが思い出せること。この2つだけでも、書く理由としては十分です。

優先順位をつけるなら、まず「連絡先の一覧」と「いつ何が起きるか(月次・年次の作業)」の2つです。この2つは、あなたが不在のときに他の人が最低限を回すための情報です。手順書より先に、こちらを1ページ書いてください。

見つけられる場所に置く

書いてあっても、見つけられなければ存在しないのと同じです。半年後に探す人は、あなたのフォルダ構成を知りません。

実務的な条件は3つです。プロジェクトに紐づいていること(案件名で辿れる)。検索できること(個人のPC内のファイルは検索されません)。権限があること(退職した人のアカウントの中にあると、開けません)。

この3つを満たすなら、置き場所はどこでも構いません。逆に、どれかが欠けていると、書いた労力がそのまま無駄になります。

ABではこう見えます

AB ProjectsのプロジェクトWikiは、この3条件を満たします。プロジェクトに紐づき、検索でき、メンバーなら誰でも開けます。プロジェクトが閉じたあとも残ります。

おすすめの構成は、6ページです。「決定の記録」「やらないこと・次期候補」「検討して落とした案」「手順書」「連絡先」「ふりかえり」。プロジェクトの立ち上げ時にこの6ページを空で作っておき、進みながら足していく。空のページがあると、書く場所を探さずに済みます。

そして決定はタスクのコメントにも残ります。「なぜこの作業がこの形になったか」が作業のすぐ横にあると、探す手間が消えます。

このページで使った言葉

決定の記録
何を決めたか、いつ、誰が、そしてなぜかを残した記録です。理由がないと、あとから見直せません。くわしく →
属人化
特定の人しか分からない状態です。ひとりで回している場合は解消できないので、記録で補います。くわしく →
議事録
打ち合わせの記録です。当日中に書けば、決定の記録をあとから抜き出すだけで済みます。くわしく →
ふりかえり
進め方を見直す場です。その記録だけは、書かなくても今日は誰も困らないため、真っ先に飛ばされます。くわしく →
ひとり情シス
社内の情報システム業務を実質ひとりで担っている状態です。記録の価値がもっとも高くなる条件です。くわしく →
引き継ぎ
つくったものを日々動かす人へ渡すことです。記録は、その裏づけになります。くわしく →

8.0 事例から学ぶ

うまくいった案件と崩れた案件、内側から見た違い。

7.1 引き渡し

手順書に載らないが、渡さないと困る6つ。

10.1 続けて伸ばす

記録が、自分の見積り精度を上げる仕組み。


公開日: 2025-01-14 最終更新日: 2026-07-28

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