テンプレートとスロットの設計とは?|MCP入門 3.3|生成AIの柔軟で安全な文脈構築法

3.3 テンプレートとスロットの設計:柔軟性とセキュリティの両立

コンテキスト情報を正しく設計するだけでは、生成AIはうまく動作しません。その情報を「どうやってモデルに渡すか」が、実装における最大のポイントになります。そこで登場するのが、テンプレートとスロットという概念です。

このセクションでは、テンプレート設計とスロット挿入を活用し、再利用性・動的性・セキュリティを高める方法について詳しく解説します。

テンプレートとは?

テンプレートとは、プロンプトやシステムインストラクションの「型(かた)」です。特定の文言や構造を固定しつつ、可変部分をスロット化して使い回すことで、一貫性のある出力と効率的な構築が可能になります。

"template": "こんにちは {{user_name}} さん。{{service_name}}のサポート担当です。本日はどういったご用件でしょうか?"

スロット設計のメリット

  • 再利用性: テンプレートは複数のシナリオで再利用可能
  • セキュリティ: ユーザー入力とテンプレート構造を分離し、インジェクションを防止
  • 多言語展開: テンプレート単位で翻訳・切り替え可能
  • パーソナライズ: スロットにプロファイル情報を差し込むことで、個別対応が可能

設計パターン1:プロンプトテンプレート

モデルに与える入力(user roleまたはsystem role)そのものをテンプレート化し、スロットを使って文脈やタスク指示を切り替える方法です。

"template": "あなたは {{role}} です。ユーザーからの問い合わせに対し、{{language}} で敬語を使って答えてください。"

この方法により、柔軟性の高いAI人格の切り替えや、ローカライズされたUXの提供が可能になります。

設計パターン2:文脈スロット化

コンテキストの一部(ユーザー名、顧客ステータス、会話要約など)をスロットで動的に挿入する方式です。特にエンタープライズ用途では、CRMや業務データベースと連携してこのようなスロットを自動生成します。

"template": "{{user_name}} 様、{{last_contact_summary}} の件でのご相談ですね。本日は {{account_status}} 状態ですので、特別対応が可能です。"

設計パターン3:安全なユーザー入力の挿入

ユーザーの自由入力をスロットに入れる場合には、プレーンな挿入ではなく、サニタイズ処理コンテキスト制限を施すべきです。

サニタイズ処理とは、モデルが誤ってコードや指示として解釈しないよう、ユーザーの入力を無害化する工程です。たとえば改行・HTMLタグ・危険な記号の削除、長文の要約、意図抽出などが含まれます。

コンテキスト制限とは、入力の長さや形式を統一し、モデルの文脈ウィンドウに収まるように制御することです。こうした処理を通じて、プロンプトインジェクション(Prompt Injection)――すなわちユーザーが意図的にモデルの指示を乗っ取るような攻撃――のリスクを軽減できます。

テンプレート管理の実装方法

  • ファイルベース: JSON, YAML, TOML 形式でテンプレートを管理
  • CMS連携: 管理画面でテンプレートを作成・編集・翻訳
  • 変数仕様の統一: 変数名のルールやスコープを明確に(例:{{user.name}}, {{session.summary}}
  • テスト機構: テンプレートとスロットの組み合わせを事前に動作確認・例外検出できる仕組み。特に出力結果が期待値と合致するかを検証することが重要です。

テンプレートとスロットの設計は、MCP実装における“文脈の流し込み口”を担います。再利用性・動的性・セキュリティという三要素をバランスよく満たすために、パターン化と抽象化、そして管理手法の整備が欠かせません。


次のセクションでは、ユーザーの意図や行動と、モデル内部の状態(ロール、目的、フロー)をどのように同期させるかという、より動的なプロトコル設計について解説します。→ 3.4 ユーザー状態とモデル状態の同期管理へ進む

公開日: 2025-03-15
最終更新日: 2025-05-11
バージョン: 3

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。

チーム

任 弘毅

株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。