マルチセッションとユーザー管理とは?|MCP入門 4.3|生成AIで複数会話と文脈を自在に制御する方法

4.3 マルチセッションとユーザー管理

ユーザーが生成AIを活用するシナリオは多様です。一つのタスクだけでなく、複数のプロジェクト、会話、目的が 並行して進むケースが現実の業務や日常利用では一般的です。たとえば:

  • 同時に複数の顧客対応を進めているカスタマーサポート担当者
  • 複数のレポートを作成しているマーケティング担当者
  • 私生活と仕事の両方でAIと会話している一般ユーザー

こうした状況では、「セッション(=会話の単位)をどう分離・保存・復元するか」がAI活用の鍵となります。 このセクションでは、MCP(Model Context Protocol)におけるマルチセッション設計とユーザー状態の管理について、 構造的に解説します。

セッションとは何か?

ここでのセッションとは、「ある特定の目的に基づいた対話のまとまり」を指します。 セッションごとに異なる文脈・履歴・目的・状態が存在し、同じユーザーでもセッションごとにモデルの振る舞いを変える必要があります。

セッションの設計単位

  • プロジェクト単位: 顧客A対応と顧客B対応は別セッション
  • 目的単位: Q&Aと日報添削は異なるセッション
  • 時間軸単位: 昨日の対話を引き継ぐ vs 新しい会話を始める

設計パターン1:セッションID + コンテキスト履歴

各セッションに一意のIDを割り当て、その中で履歴や状態を保持します。 ユーザーがセッションを切り替えるたびに、MCPがそれに応じた文脈・タスク情報を読み込みます。

{
  "session_id": "a17d9a",
  "context": "先週のクレーム処理について再確認しています。",
  "task": "謝罪文の作成"
}

設計パターン2:セッションテンプレートの分離

MCPのテンプレートやSystem Instructionをセッション単位で切り替えます。 例:営業対応と日報添削でトーンや出力形式が違う。


// 営業セッション
"template": "あなたは営業アシスタントです。顧客との折衝履歴をもとに、提案を生成してください。"

// 日報添削セッション
"template": "あなたはフィードバック専門家です。以下の日報に対して改善点を添えてください。"

設計パターン3:ユーザー属性との組み合わせ

同じユーザーが異なるセッションにいる場合でも、属性(例:職位、部門、好み)を引き継いで文脈に追加します。

{
  "user": {
    "id": "user123",
    "role": "マネージャー",
    "department": "営業部"
  },
  "session": {
    "id": "d4e2f7",
    "purpose": "部下の日報レビュー"
  }
}

セッション保存と復元

セッションはデータベースや一時ストレージに保存され、必要に応じて復元されます。 セッション切り替えボタンやURLパラメータによる指定で、ユーザーが文脈を選択できるUXが好まれます。

セキュリティとプライバシーへの配慮

  • セッションごとにアクセス権を分ける(プロジェクト別・役割別)
  • 個人情報をセッションから自動除去・マスキングする処理
  • 会話履歴の削除/有効期限設定機能の実装

マルチセッション設計は、AIとの対話を「使い捨て」から「継続的・文脈的」に進化させる鍵です。 MCPを通じて、文脈、状態、目的をセッション単位で明示的に管理することで、 より信頼性が高く、パーソナライズされた体験が実現できます。


次は、LLMを業務ツール(カレンダー、チャット、データベースなど)と連携し、 コンテキストに応じて“行動するエージェント”へ進化させるための設計を紹介します。 → 4.4 外部ツールとのプロトコル統合へ進む

公開日: 2025-03-20
最終更新日: 2025-05-11
バージョン: 2

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。

チーム

任 弘毅

株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。