RAG時代の設計者とは?検索と生成をつなぎ、AIを業務に根づかせる方法|LLM入門 終章

終章 検索と生成をつなぐ設計者へ
生成AIが実務に浸透しはじめた今、私たちには新しい問いが突きつけられています。
それは、「モデルが賢くなったからといって、本当に私たちの業務はより良くなるのか?」ということです。
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、この問いに対する現実的な答えのひとつです。
ChatGPTのような言語モデルが“何でも知っているかのように”見えても、そこには限界がありました。
──組織特有の知識がない。業務フローを知らない。ドキュメントの最新情報に追いついていない。
RAGは、こうした問題を補うために生まれたアーキテクチャであり、
検索と生成の間に「文脈」を設計するという思想です。
情報を渡す設計者へ
この本を通じて、RAGの構造と設計について学んできた読者の皆さんは、
すでに「何をどうモデルに渡すか」という問いに向き合う力を手にしています。
モデルに渡すべき情報は何か。
それを、どのように整え、どのように制御し、どのように活かすか。
その判断と構成を担うのが、「検索と生成をつなぐ設計者」なのです。
この仕事には、3つの力が求められます。
-
実装する力:LangChainやLlamaIndexを使いこなし、RetrieverとLLMを結ぶ技術的な知識
-
設計する力:文脈の整形、プロンプト構造、出典の管理など、構成全体の意図を描く力
-
運用する力:幻覚を抑え、評価を行い、継続的に改善するための視点
こうした力の中心にあるのが、「渡す情報を選ぶ」という意思です。
組織の知識を生かすAIの時代へ
生成AIは、インターネットの知識で“何でも答える”存在から、
組織の知識を生かす“内部支援者”へと進化しようとしています。
-
社内のFAQを参照しながら、問い合わせに答えるAI
-
法務ドキュメントを読み込み、規定に即した助言を行うAI
-
技術マニュアルを把握し、エンジニアの設計レビューを支援するAI
そのようなAIをつくる鍵が、RAGであり、
その構成を担う人が、「検索と生成をつなぐ設計者」です。
これは単なる開発者でも、プロンプトエンジニアでもありません。
情報構造と文脈設計を理解した、新しいタイプのアーキテクトです。
今後の学びの地図
この本はRAGの入門でありながら、深い実装・評価・活用へと続く学びの出発点でもあります。
今後、より高度なRAG構成に挑む際には、以下のような方向性が実務と接続されていきます。
-
LangChain / LlamaIndex を使った実装最適化
-
Retrieverと出力の評価フレームワークの導入
-
セキュリティ・アクセス管理・コンプライアンス対応
-
組織ごとのナレッジマネジメント戦略への統合
生成AIと業務をつなぐ道は、技術だけでは完成しません。
設計し、運用し、改善する意志を持つ人がいてはじめて、AIは使える存在になります。
RAGとは、「文脈を設計する」という行為です。
どの文書を使うか、どこから取り出すか、どのように構成するか。
それはまるで、編集者が資料を束ねて、語るべきことを整えるような行為です。
AIは、自動で答えてくれる存在ではありません。
私たちが「何を渡すか」を決めてはじめて、意味のあるアウトプットが生まれるのです。
本書が、あなた自身の知識と経験を活かし、
次のAI設計を始めるための静かな力になれば幸いです。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。カテゴリー
検索履歴
チーム

任 弘毅
株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。