Azure Cognitive SearchやElasticでRAGを実現する方法|既存検索基盤を活かす構成とは|LLM入門 5.4

5.4 Azure Cognitive SearchやElasticなど代替案
ここまでのセクションでは、RAG構築におけるツールとして OpenAI Embeddings、LangChain、LlamaIndex といった「生成AIに特化した新しいライブラリ群」に焦点を当ててきました。しかし、すでに企業の中で運用されている情報検索基盤──たとえば Azure Cognitive Search や Elasticsearch ──を活かす形でRAGを実装したい、という要望も少なくありません。
このセクションでは、そうした既存検索基盤を活用した「RAG設計の代替案」として、AzureやElasticの特徴と使いどころ、導入時の注意点を解説します。
生成AI時代の“既存インフラ再活用”という選択
企業や組織では、すでに全文検索システムや社内文書管理のインフラが整備されているケースが多くあります。以下のような状況です:
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Azure Cognitive Search を使って社内の文書検索を運用している
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ElasticStack(Elasticsearch + Kibanaなど)でログやナレッジを一元化している
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PDFやWordなどの社内文書がOCR済みでインデックスされている
このような環境に対して「ゼロからLangChainやFAISSを構築する」のではなく、「既存の検索APIをRetrieverとして再利用する」という方針をとることで、業務への導入障壁を下げることができます。
Azure Cognitive Search:マイクロソフト系RAG実装の第一歩
特徴:
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Azure上のクラウド検索エンジン(フルマネージド)
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構造化・非構造化データに対応し、OCR済みPDF、Office文書も対象
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多言語サポート、日本語解析器やカスタムスキーマも構築可能
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Azure OpenAIと組み合わせて「RAG構成済みBot」のひな形も提供
利用例:
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Cognitive Search で該当文書を検索し、結果を Azure OpenAI に渡す
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searchClient.search("ユーザーの質問")
→ 結果から数件を抽出 -
system_prompt + 検索結果 + 質問
を GPT に投げて回答生成
メリット:
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Microsoft製品との統合が容易(SharePoint, Teams, OneDriveなど)
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セキュリティ、認証、ログ監査がクラウド標準で整備されている
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生成AI+検索の組み合わせがAzure上で完結する
注意点:
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埋め込みベースのセマンティック検索は別途設定が必要(Cognitive Search + Vector Search 機能はプレビュー段階)
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LLMとの連携には「プロンプト整形」やスコアフィルタなどの工夫が必要
Elasticsearch:高い柔軟性とOSSエコシステムの強み
特徴:
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オープンソースで長年使われている全文検索エンジン
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Kibanaによる可視化、Logstashによる連携が可能
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膨大なデータのリアルタイム検索に強い
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BM25 などのキーワード検索だけでなく、Dense Vector(ベクトル検索) もサポート
RAG応用例:
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dense_vector
型を用いて、文書と質問をベクトル化 -
cosine similarity スクリプトを使って意味検索を実装
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LangChain の ElasticsearchRetriever と接続して活用することも可能
メリット:
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オンプレミスやクラウド問わず柔軟に運用できる
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既存のログ・文書・ナレッジデータ資産をそのまま活用可能
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セマンティック検索とキーワード検索のハイブリッドも設計可能
注意点:
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ベクトル検索機能は設定と運用にノウハウが必要
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LLMと組み合わせるには独自のパイプライン設計が求められる(LangChainやLlamaIndexとの連携も検討)
比較:新興ライブラリ vs 既存インフラ
観点 | LangChain / LlamaIndex | Azure / Elastic |
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学習コスト | やや高い(抽象度が高い) | 比較的低い(既存知識を活用可) |
検索方式 | 意味検索(Embedding中心) | キーワード検索主体+一部ベクトル対応 |
初期構築 | 柔軟だがゼロから構築 | 既存資産を活かせる |
運用性 | 軽量でアジャイル向け | エンタープライズ寄り、セキュアで堅牢 |
LLM連携 | OpenAI / Anthropic / ローカルLLM対応 | Azure OpenAI / 外部LLM連携は工夫が必要 |
結論:目的と現場に応じた「組み合わせ設計」を
RAGは「検索と生成をつなぐ構造」ですが、それをどう実装するかは組織のリソース、既存資産、セキュリティ要件、速度要件などによって異なります。
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自社ですでにElasticSearchのログ基盤がある → ベクトル対応してRAGに拡張
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Microsoft 365と連携した社内Botを構築したい → Azure Cognitive Search を起点にAzure OpenAIを組み合わせる
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小規模かつ高速なPoCを試したい → LangChain + OpenAI Embedding + FAISSで構築
このように、RAG実装には“正解の型”は存在せず、目的に応じた柔軟な構成が求められるのです。
プロンプトと文脈の設計へ
これまでの章では、RAGを構成する技術・ツール・検索基盤について網羅的に整理してきました。
次の章「第6章 設計の現場:プロンプトと文脈の設計」では、Retrieverで取得した情報をいかに設計し、プロンプトとしてLLMに渡すかという「設計の現場」へと焦点を移していきます。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。カテゴリー
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チーム

任 弘毅
株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。