RAGに適したベクトル検索エンジンとは?FAISS・Weaviate・Pinecone徹底比較|LLM入門 4.2

4.2 ベクトル検索エンジン(FAISS / Weaviate / Pinecone)
前のセクションでは、埋め込みモデルによって自然言語を意味ベースのベクトルに変換する仕組みを解説しました。
しかし、ベクトルに変換されたとしても、それだけでは意味的に類似する文書を効率よく見つけ出すことはできません。
その役割を果たすのが「ベクトル検索エンジン(Vector Search Engine)」です。これは、数万〜数百万の高次元ベクトルから、ユーザーの質問に最も近い情報を高速かつ正確に検索するための専門的なインフラです。
このセクションでは、RAG構成におけるベクトル検索エンジンの役割と、代表的なエンジンの特徴、選定時のポイントについて解説します。
なぜベクトル検索が必要なのか?
従来の全文検索では、文字列の一致やキーワードの有無を条件に文書を絞り込みます。
対して、RAGでは「意味が近い文書」を探す必要があり、キーワード一致ではなく「意味の近さ(類似度)」によって検索を行います。
この意味的な類似性は、ユーザーの質問文とナレッジベース内の文書をともにベクトルに変換したうえで、コサイン類似度などの距離関数を用いて比較します。
例:
「退職後の健康保険はどうなりますか?」
→ 「健康保険資格喪失後の任意継続制度に関する説明文」が類似ベクトルとしてマッチする
このような処理は単純なDB検索では不可能であり、ベクトル検索専用エンジンが必要になります。
ベクトル検索エンジンの基本構造
ベクトル検索エンジンは、以下のような構成要素を持ちます。
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インデックス(Index)
埋め込みベクトルを格納・構造化し、高速検索できるようにする。圧縮・近似・シャーディングなどの手法が使われる。 -
検索アルゴリズム
対象となるベクトルに対して、指定した類似度関数(例:コサイン類似度、ユークリッド距離)を用いて近いものを上位N件返す。 -
メタデータ検索/フィルタ機能
カテゴリやタグ、日時などの付加情報に基づく条件付き検索も可能(ハイブリッド検索)。 -
スケーラビリティ対応
数百万規模のベクトルや高頻度アクセスを支えるための分散処理機構・メモリ設計。
主なベクトル検索エンジンの比較
① FAISS(Facebook AI Similarity Search)
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開発元:Meta(旧Facebook)
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特徴:高速・高精度・C++/Pythonベースでオンプレミス運用可能
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利点:大規模処理に強く、GPU対応もあり。ローカル環境に最適
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欠点:検索以外の機能(管理画面・REST APIなど)がないため、統合に手間がかかる
② Weaviate
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開発元:Semi Technologies(オープンソース)
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特徴:REST API+GraphQLベースの操作性。クラウド・オンプレミス両対応
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利点:メタデータ検索・スキーマ設計・ハイブリッド検索が豊富。LangChainとの相性も良い
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欠点:日本語モデルと組み合わせる場合は若干の調整が必要
③ Pinecone
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開発元:Pinecone Systems(商用SaaS)
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特徴:マネージドなクラウド型ベクトルDBとして急成長
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利点:スケーラビリティ、安定性、APIの扱いやすさが魅力。ハイブリッド検索も標準対応
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欠点:使用量によって料金が上がる。外部サービス連携を前提とする設計が多い
選定時の判断ポイント
ベクトル検索エンジンを選ぶ際は、単に「精度が高いか」だけでなく、以下の観点を総合的に考慮する必要があります。
観点 | チェックポイント |
---|---|
スケーラビリティ | 数万〜数百万件の文書が対象になったとき、応答速度を維持できるか? |
運用形態 | オンプレミス or クラウド?自社でホスト可能か? |
フィルタ機能 | メタ情報を使った検索(例:カテゴリや部署ごとの絞り込み)が可能か? |
多言語対応 | 日本語を含むマルチリンガルなベクトルが扱えるか? |
他ツールとの連携 | LangChainやLlamaIndexとの統合がしやすいか? |
よくある誤解:「ベクトル検索がすべてを解決する」
ベクトル検索エンジンは、確かに従来の全文検索を超える柔軟性を提供します。
しかし、実際には「過剰にマッチしてしまう」「文脈に合わないものが引っかかる」といった現象も起こり得ます。
そのため、検索結果に対しては以下の工夫が必要です。
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閾値(スコア)の設定:類似度が一定以下の文書は破棄する
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ラグランク(再ランク付け):LLMによる事後評価で再ランクを行う
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ユーザー入力の正規化:質問の意味が明確になるように前処理を施す
ベクトル検索は“魔法の道具”ではなく、あくまで意味空間における候補抽出の第一歩であると捉えましょう。
コンテキスト整形とLLM統合
このセクションでは、埋め込みベクトルを活用して関連文書を高速に検索するための「ベクトル検索エンジン」の仕組みと選定の考え方を整理しました。
次のセクション「4.3 コンテキストの整形とLLMへの統合」では、検索によって得られた複数の文書をどのようにLLMに渡し、適切な回答を得るか──つまり「コンテキスト整形と統合」の設計へと進んでいきます。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。カテゴリー
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チーム

任 弘毅
株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。