RAGでFAQ対応を自動化する方法と効果とは?顧客サポートをAIで強化|LLM入門 3.2

3.2 顧客FAQ対応Bot(カスタマーサポート強化)
カスタマーサポート業務では、顧客からの問い合わせに対して、正確かつ迅速な回答を提供することが重要です。しかし、実際の現場では以下のような課題がしばしば発生しています。
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「よくある質問」が膨大で、Web上のFAQでは目的の情報にたどり着けない
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顧客の表現が多様で、キーワード検索ではマッチしづらい
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サポート担当者への負荷が集中し、応答品質や対応スピードにばらつきが出る
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問い合わせの多くが“定型的な内容”で、本来の付加価値業務に時間が割けない
このような状況を改善する手段として注目されているのが、RAGを活用したFAQ対応Botの構築です。
RAGでFAQの“限界”を超える
従来のFAQは、検索機能やカテゴリ分けによってユーザーを目的の回答に導こうとします。しかし、ユーザーの質問は必ずしもFAQページの「タイトル」や「キーワード」と一致するとは限りません。
たとえば、「返品したいのですが…」という曖昧な表現でも、製品カテゴリ・購入時期・セール品・開封済みなど、条件によって適用されるルールは異なります。
このような場面では、RAGが持つ意味ベースの検索能力と文脈に沿った自然な生成能力が大きな力を発揮します。
典型的なRAG活用の流れ
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ユーザーから自然文で質問を受け取る
例:「クーポンを使った商品は返品できますか?」 -
RetrieverがFAQ文書や規約から関連情報を検索
例:「返品ポリシー第3項にクーポン適用時の除外条件あり」 -
Generatorがユーザーの文脈に合わせた自然な文章で回答を生成
例:「クーポンをご利用いただいた商品は原則として返品対象外となります。ただし、不良品など例外があります。詳しくは規約第3項をご確認ください。」
このように、「FAQを読ませる」のではなく「FAQに基づいて答える」という体験を提供できる点が、RAGの大きな価値です。
導入事例:EC事業者B社のケース
B社は、年商100億円規模のECサイトを運営しており、月間の問い合わせ件数は約25,000件。中でも、「配送」「返品」「キャンペーン」に関する定型的な質問が全体の70%を占めていました。
同社は、以下のデータ群をベースに、RAG型FAQ Botを構築しました。
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公開済みFAQページ(約500件)
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利用規約、キャンペーン規定、商品説明文
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過去の問い合わせ履歴(匿名化)
導入後、Botは以下のチャネルで活用されました:
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Webサイトのチャットボックス
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LINE公式アカウント
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モバイルアプリ内FAQタブ
効果:
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定型問い合わせの自己解決率が約60% → 85%へ上昇
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オペレーター対応の件数が大幅に減少
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回答の品質が均一化され、顧客満足度が向上
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利用規約など難解な文書を“平易な言葉で説明”できるようになった
実装・運用のポイント
RAG型FAQ Botを効果的に運用するためには、以下の工夫が不可欠です。
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質問の表現多様性に対応した検索精度の設計
同義語・略語・口語などを網羅的に扱えるEmbeddingの工夫。 -
根拠の提示と透明性の確保
回答文に「参照元リンク」や「出典文書の抜粋」を併記し、信頼性を担保。 -
継続的なログ分析とチューニング
Botの応答ログを分析し、Retrieverやプロンプトの調整を継続的に実施。 -
顧客対応の一線を超えない“判断しない”設計
個別判断が必要な内容は人間対応に誘導する設計(エスカレーション設計)。
顧客とBotの“距離”を縮めるAI活用へ
RAGを活用したFAQ対応Botは、単なる業務効率化の手段ではなく、顧客体験そのものを刷新するインターフェースとなります。
FAQを「読ませる」のではなく、「自然に答えてくれる」。しかも、それがいつでも・どこでも・誰にでも同じ品質で提供される。これは、従来のチャットボットでは実現できなかったユーザー体験です。
専門文書を扱う分野でのRAG
次のセクション「3.3 法務・医療・教育など専門文書活用」では、FAQのような定型文書だけでなく、より高度な専門文書──法務文書、医療ガイドライン、教育要綱など──を対象としたRAGの活用について見ていきます。
RAGは、専門知識が求められる分野においても、有効な支援手段となり得るのです。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。カテゴリー
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チーム

任 弘毅
株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。