RAGで社内ナレッジBotを構築する方法と導入効果|LLM入門 3.1

3.1 社内ナレッジBot(社内文書QA)

企業や団体では、業務の標準化と効率化のために、就業規則、福利厚生制度、業務マニュアル、業務フロー、ITポリシーなど、さまざまな「社内文書」が整備されています。しかし、これらの文書が整っているにもかかわらず、現場の社員が「必要なときに、必要な情報を引き出せない」という問題は、多くの組織で共通しています。

「どこに書いてあったか思い出せない」「探すのが面倒」「結局、詳しい人に聞いてしまう」。こうした情報の“探索コスト”が高い状態は、業務効率を損ねるだけでなく、属人化や判断ミスの温床にもなり得ます。

このような状況を改善する有効な手段が、RAGを活用した社内ナレッジBotの導入です。

 

問題:情報はあるのに使われない

多くの企業では、以下のような悩みを抱えています。

  • 社内規定集や手順書はあるが、誰も読まない

  • ExcelやPDFで保存されているが、検索がしづらい

  • ポータルサイト上にFAQを整備しているが、実際の利用頻度は低い

  • 担当者への「口頭質問」が絶えず、本来の業務を圧迫している

このように、情報は整備されていても、「引き出しやすさ」「使いやすさ」が欠けていることで、実質的には“死蔵”されている状態にあります。

 

解決策:RAGによる文脈型ナレッジBot

RAGを用いた社内ナレッジBotは、従来のFAQや全文検索と異なり、次のような点で大きな利点があります。

  1. 意味ベースの検索ができる
    ── キーワードに頼らず、「聞きたいことの意図」を捉えて関連情報を抽出。

  2. 検索結果を自然な文章で回答してくれる
    ── 原文を読みにくいまま出すのではなく、要点を整理して説明してくれる。

  3. 情報が更新されればすぐ反映される
    ── ナレッジベース側の文書を更新すれば、再学習せずに内容を変えられる。

例として、以下のようなやり取りが可能になります。

 

ユーザー:
「フレックスタイム制度のコアタイムは何時ですか?」

ナレッジBot(RAG型):
「現在のフレックスタイム制度では、コアタイムは10時から15時です。始業は7時以降、終業は22時までの範囲で調整可能です。詳細は人事ガイドライン第2章に記載されています。」

 

導入事例:製造業A社のケース

ある製造業の企業A社では、社員数1,000名超の組織において、年間約3,000件に及ぶ「社内問い合わせ」が、主に人事・総務・IT部門に集中していました。
同社は、RAGベースのナレッジBotを構築し、以下の社内文書をナレッジベースに組み込みました。

  • 就業規則、社内制度

  • 稟議・申請手順

  • 情報セキュリティポリシー

  • 新人向け研修資料

Botは、社内チャットツール(SlackやTeams)から自然言語で質問できるインターフェースを提供し、回答には出典文書のリンクや該当箇所の引用を併せて提示しました。

導入後の効果:

  • 社内問い合わせ件数が約40%削減

  • 回答のスピードが平均3日→即時に

  • 担当部署の人的負担を軽減

  • 新入社員の自己解決率向上

 

実装のポイント

成功するナレッジBotの構築には、以下の設計が重要です。

  • 文書のチャンク化とメタ情報付与(例:カテゴリ・部署)

  • 質問例と同義表現の収集(埋め込み精度の向上)

  • 運用中のログ分析とフィードバックループの設計

  • ChatGPTやClaudeなど、生成モデルの選定とプロンプト調整

  • 情報更新のワークフロー整備(ナレッジベースの鮮度維持)

このように、RAG型ナレッジBotは「一度作って終わり」ではなく、継続的に改善して育てていくことが前提のシステムです。

 

カスタマーFAQ対応Bot

このセクションでは、社内向けのRAG活用として、ナレッジBotの構築とその効果について見てきました。
次のセクション「3.2 顧客FAQ対応Bot(カスタマーサポート強化)」では、RAGを外部向けに応用したケース──すなわち「カスタマーサポートのFAQ自動応答」の領域に目を向けていきます。

公開日: 2025-02-12
最終更新日: 2025-05-25
バージョン: 3

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。

チーム

任 弘毅

株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。