5.2 勾配降下法とバックプロパゲーション - LLMのトレーニング手法の解説

前のセクションでは、「損失関数の重要性」について学びました。ここでは、勾配降下法がどのようにしてバックプロパゲーションと連携し、モデルのパラメータを最適化するのかを詳しく見てみましょう。

5.2 勾配降下法(こうばいこうかほう)とバックプロパゲーション

勾配降下法は、モデルのパラメータを最適化するための手法として広く利用されていますが、その実行にはバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)が不可欠です。バックプロパゲーションは、勾配を計算してモデルの各パラメータをどのように更新すべきかを決定するためのアルゴリズムであり、特に深層学習モデルやLLM(大規模言語モデル)のトレーニングにおいて重要な役割を果たします。

勾配降下法は、損失関数の最小値を見つけるために、損失関数の勾配(傾き)に従ってパラメータを更新するプロセスですが、この勾配を効率的に計算するためにはバックプロパゲーションが使われます。バックプロパゲーションは、モデルの出力から入力層までの誤差を逆方向に伝播させ、各パラメータに対して勾配を計算します。この過程を通じて、勾配降下法がパラメータの最適化を行うための指針を得ます。

具体的なアルゴリズムは次のように進行します:

  1. モデルが予測を行い、損失関数を計算します。
  2. 損失関数に基づいて、出力層から順に勾配を計算し、誤差を逆方向に伝播させます。
  3. 各層のパラメータに対して勾配を計算し、学習率に従ってパラメータを更新します。

このプロセスは次の数式で表されます:

\[ \theta = \theta - \eta \cdot \nabla L(\theta) \]

ここで、\(\theta\)はパラメータ、\(\eta\)は学習率、\(\nabla L(\theta)\)は損失関数の勾配です。バックプロパゲーションは、この勾配を計算するための方法です。

勾配降下法とバックプロパゲーションは、モデルが誤差を最小化するための主要な手段です。特に深層学習やLLMでは、膨大な数のパラメータが存在するため、このプロセスが効率的に行われることがモデルの性能向上に直結します。バックプロパゲーションを通じて、各層の重みやバイアスが更新され、モデルは次のイテレーションでより正確な予測を行えるようになります。

勾配消失問題と勾配爆発問題

ただし、勾配降下法とバックプロパゲーションには、勾配消失問題勾配爆発問題といった課題があります。これらの問題は、特に深層ネットワークで顕著(けんちょ)です。

勾配消失問題は、層が深くなるにつれて勾配が極端に小さくなり、最終的にはほぼゼロに近づいてしまう現象です。これにより、勾配が有効に計算されなくなり、モデルの学習が停止してしまうことがあります。たとえば、シグモイド関数のような活性化関数を使用する場合、出力範囲が0〜1に制限されるため、勾配が小さくなりがちです。

逆に、勾配爆発問題は、勾配が大きくなりすぎて、学習が不安定になったり、パラメータの更新が過度に大きくなってしまう現象です。特に、リカレントニューラルネットワーク(RNN)では、タイムステップが長くなると勾配が急激に大きくなり、モデルが適切に学習できなくなります。

勾配クリッピングと正則化の詳細

これらの問題を解決するために、以下の技術がよく用いられます:

  • 勾配クリッピング:勾配が一定の閾値を超えた場合、その勾配をその閾値に制限する手法です。これにより、勾配爆発を防ぎ、学習を安定化させることができます。たとえば、勾配のノルム(大きさ)が10を超える場合、それ以上の値を持たないようにクリッピングします。
  • 正則化:モデルが複雑すぎて過学習しないように、パラメータにペナルティを課す手法です。L2正則化(リッジ回帰)では、パラメータの二乗和にペナルティを与え、パラメータが過度に大きくならないようにします。これにより、モデルの汎化性能が向上します。

勾配降下法とバックプロパゲーションは、LLMのトレーニングにおける中核的な手法であり、効率的なモデルの最適化を実現します。これらのアルゴリズムを正しく理解し、適切に適用することで、LLMは高精度な言語生成や文脈理解を可能にします。

次に第6章では、「大規模データセットとトレーニングの実際」に進み、LLMのトレーニングにおけるデータセットの重要性と実際のトレーニングプロセスについて学びます。

公開日: 2024-10-15
最終更新日: 2025-02-03
バージョン: 3

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。