5.0 勾配降下法とモデル最適化 - LLMのトレーニング手法解説

前のセクションでは、「マルチヘッドアテンション」について学びました。文脈の異なる部分に対して同時に注意を払い、多様な情報を取得しながら言語理解を高める仕組みを確認しました。

5. 勾配降下法によるモデル最適化

勾配降下法(Gradient Descent)は、機械学習モデルを最適化するために使用される代表的なアルゴリズムで、LLM(大規模言語モデル)のトレーニングにおいても不可欠な手法です。勾配降下法は、モデルのパラメータを少しずつ調整し、損失関数の値を最小化することでモデルを最適化します。この最適化により、モデルはデータに対してより高精度な予測を行えるようになります。

5.1 損失関数の重要性

勾配降下法の鍵となる要素は、損失関数です。損失関数は、モデルの予測と実際の値との間の誤差を測定するための指標であり、これを最小化することでモデルの予測精度を高めます。LLMのトレーニングにおいては、クロスエントロピー損失が一般的に使用され、これはモデルが生成した確率分布と正解ラベルの分布との差を評価するものです。

クロスエントロピー損失は、モデルが予測した確率が真の値にどれだけ近いかを測定します。この損失関数を最小化することで、モデルはより正確な予測を行えるように調整されます。損失関数が適切に設計されていなければ、勾配降下法の効果も発揮されません。

数式で表すと、パラメータの更新は次のようになります:

\[ \theta = \theta - \eta \cdot \nabla L(\theta) \]

ここで、\(\theta\) はモデルのパラメータ、\(\eta\) は学習率(Learning Rate)、\(\nabla L(\theta)\) は損失関数 \(L(\theta)\) の勾配です。損失関数の勾配を基に、モデルのパラメータを少しずつ調整して最適解に近づけます。

5.2 勾配降下法の応用と最適化

勾配降下法にはいくつかのバリエーションがありますが、LLMにおいてよく用いられる手法の一つがミニバッチ勾配降下法です。通常の勾配降下法では、全データセットを使用して損失関数を計算しますが、ミニバッチ勾配降下法ではデータを小さなバッチに分け、バッチごとに勾配を計算してパラメータを更新します。これにより、大規模データセットを用いたトレーニングが効率的に行えます。

また、勾配消失勾配爆発といった問題も考慮する必要があります。勾配消失は、勾配が極端に小さくなり、モデルの学習が進まなくなる現象であり、勾配爆発は逆に勾配が非常に大きくなり、パラメータ更新が不安定になる問題です。これらを防ぐために、勾配クリッピングといった技法が用いられます。勾配クリッピングは、勾配が設定した閾値を超えた場合、その大きさを制限することで、勾配爆発を防ぎます。

最適化アルゴリズムとして、AdamRMSPropなどの手法も広く使用されており、これらは勾配降下法の変種として、学習率の動的調整やモーメンタム項を導入することで、学習の収束をより速く、かつ安定させる効果があります。

次のセクションでは、「損失関数の重要性」についてさらに学びます。損失関数がモデルの性能を左右する重要な要素である理由を解説します。

公開日: 2024-10-13
最終更新日: 2025-02-03
バージョン: 2

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。