6.1 データセットの前処理 - トレーニングデータのクリーニングと最適化方法

前のセクションでは、「大規模データセットとトレーニングの実際」について解説しました。ここでは、モデルが正しく機能するために、データをどのようにクリーニングし、準備するのかを詳しく見ていきましょう。

6.1 データセットの前処理

LLM(大規模言語モデル)のトレーニングには、膨大なデータセットが使用されますが、そのデータをそのまま利用するわけではありません。データは未加工のままではノイズが多く、不規則であるため、モデルに適した形に加工する必要があります。この過程がデータセットの前処理です。前処理の主な目的は、データをクリーンで一貫性のあるフォーマットにし、トレーニングの効率と精度を向上させることです。

1. データのクリーニング

生のデータはノイズを多く含むため、まずクリーニングが必要です。クリーニングには、次のような処理が含まれます:

  1. 不要な記号や空白の削除: データ内の無関係な記号、改行、余分な空白などは削除されます。これにより、テキストの構造が整い、モデルが正確に学習できるようになります。
  2. HTMLタグの削除: ウェブデータを使用する場合、テキストに埋め込まれたHTMLタグやメタデータを取り除く必要があります。これにより、純粋なテキストデータだけが残ります。
  3. 重複データの削除: 同じ内容のテキストが繰り返されている場合、それらを削除してデータの冗長性を減らします。重複したデータはモデルの学習効率を低下させる可能性があります。
  4. 特定の文字の正規化: 大文字小文字の一貫性を保つためにテキストを正規化します。また、例えば、日本語の場合は全角と半角の文字を統一するなど、言語特有の正規化も行われます。

2. トークン化(Tokenization)

トレーニングに使用するために、テキストはモデルが理解しやすい単位に分割されます。このプロセスをトークン化と呼びます。トークン化では、テキストを単語、サブワード、または文字単位で分割します。

一般的なトークン化の手法には、次のものがあります:

  1. 単語トークン化: テキストを単語ごとに分割する方法です。英語などのスペース区切りの言語では非常に有効ですが、漢字を使用する言語では特殊な処理が必要です。
  2. サブワードトークン化: 単語をさらに細かく分割し、サブワード(語の一部)に分解する手法です。これにより、未知の単語でも、その部分的な構造を学習することが可能になります。BPE(Byte Pair Encoding)やWordPieceがよく使用されます。
  3. 文字トークン化: 文字単位でトークン化する手法です。これにより、どんな言語や文字体系でも対応可能ですが、非常に細かいトークン化となるため、モデルの学習コストが増加する可能性があります。

例: 「I love NLP.」を単語トークン化すると、["I", "love", "NLP", "."]となります。サブワードトークン化では、["I", "lov", "e", "N", "LP", "."]のように分割されることがあります。

3. 正規化と標準化

次に、トレーニングデータの一貫性を保つために正規化標準化が行われます。正規化とは、テキストの表記揺れを統一することで、例えば、イギリス英語とアメリカ英語のスペルの違いを統一することなどが含まれます。また、標準化では、例えば、数値や日付のフォーマットを統一します。これにより、モデルが異なる形式のデータを混乱せずに処理できるようになります。

例: 英語の "color" と "colour" を "color" に統一する、日付のフォーマットを "YYYY/MM/DD" に統一する、など。

4. バイアスの軽減

トレーニングデータに含まれるバイアスは、モデルの出力にも影響を与えるため、データバイアスを軽減するプロセスが必要です。特定の属性(例:性別、人種、年齢など)に偏りがある場合、その影響を減らすために、サンプリング方法を調整し、データセットがより公平になるように工夫します。これにより、AIモデルが公平で公正な判断を行うことが期待されます。

5. データのサンプリングとリサンプリング

最後に、データの規模が非常に大きい場合、すべてのデータをトレーニングに使うことが非効率な場合があります。このため、データの中から適切なサンプルを抽出するサンプリングが行われます。サンプリングはランダムで行われることもありますが、一般的には、モデルの目的に応じたロジックに基づいて行われます。重要な部分や多様な文脈を含むサンプルが優先される一方、バイアスを軽減するために、特定のカテゴリを意図的に多く含めるリサンプリングも行われることがあります。

これらの前処理を経たデータセットは、モデルのトレーニングに適した形に変換され、効率的かつ効果的な学習を実現します。前処理は、トレーニングプロセスの精度と効率性に大きな影響を与える重要なステップです。

次のセクションでは、「ミニバッチ学習と計算効率」について解説します。効率的なトレーニングを実現するために、データをどのように分割し、計算コストを最小化するかについて見ていきます。

公開日: 2024-10-17
最終更新日: 2025-02-03
バージョン: 1

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。