2.2 注意メカニズムの解説 | 自己注意とマルチヘッドアテンションによる文脈理解

2.2 注意メカニズム (Attention Mechanism)

注意メカニズム(Attention Mechanism)は、トランスフォーマーモデルの核心を成す技術であり、LLM(大規模言語モデル)が文脈を深く理解するために重要な役割を果たします。 従来のRNNやLSTMのような逐次処理モデルとは異なり、注意メカニズムは文中の全ての単語同士の関連性を評価し、文脈全体を効果的に把握します。 ここでは、特に自己注意メカニズム(Self-Attention Mechanism)に焦点を当てて、その仕組みを解説します。

前のセクション「トランスフォーマーモデルの説明」では、トランスフォーマーモデルの構造や特徴について詳しく説明しました。 このセクションでは、その中核技術である注意メカニズムに注目し、文脈を理解するためのプロセスを解説します。

自己注意メカニズム(Self-Attention Mechanism)とは

自己注意メカニズムは、入力されたテキストの中で、各単語が他の単語にどの程度依存しているかを計算する仕組みです。 たとえば、ある単語が文中の他の単語と強く関連している場合、その単語に対する「注意」が増加します。 これにより、長い文章や複雑な文脈を含む文章でも、各単語がどのように関連し合っているかを捉えることが可能になり、自然な文章生成や文脈理解が実現します。

クエリ、キー、バリューの概念

注意メカニズムの基礎は、クエリ(Query)キー(Key)バリュー(Value)の3つの概念に基づいています。 各単語はこれらの要素に変換され、以下のプロセスで処理されます:

  • クエリ:注目する単語(例:文脈中の単語)
  • キー:他の単語の情報(関連性を計算する基準)
  • バリュー:関連性に基づいて出力される意味情報

クエリとキーの内積を計算し、その結果に基づいてバリューに「注意」を割り当てます。この計算は文中の全ての単語に対して行われ、各単語の影響度を表す重みが得られます。 この仕組みにより、文章全体の文脈を捉え、適切なテキスト生成が可能となります。

スケールドドットプロダクトアテンション

注意メカニズムで使用される代表的な計算手法が、スケールドドットプロダクトアテンション(Scaled Dot-Product Attention)です。 クエリとキーの内積を計算して単語間の関連性を数値化し、この値をスケーリングして適切な範囲に調整します。 次に、ソフトマックス関数を適用して各単語に注意を割り振ります。 このプロセスは計算の安定性と効率を保ちながら、長いシーケンスや複雑な文脈の処理を可能にします。

マルチヘッドアテンション

トランスフォーマーモデルでは、マルチヘッドアテンション(Multi-Head Attention)が使用されます。 これは、単一の注意メカニズムでは見逃される可能性のある異なる関係性や文脈を同時に捉えるための手法です。 複数の「ヘッド」が独立して異なる視点から注意を計算し、これらを統合することで、より豊かな文脈理解が実現します。 マルチヘッドアテンションは、特に多様な意味や依存関係を含む複雑な文章において、その効果を発揮します。

注意メカニズムは、LLMが非常に高い精度で文脈を理解し、生成するための基盤技術です。 自己注意メカニズムとマルチヘッドアテンションの組み合わせにより、長いシーケンスや複雑な依存関係の処理が可能になり、スケーラブルで柔軟なNLPタスクの対応を支えています。

次のセクション「BERT、GPT、T5モデルの概要」では、実際にLLMの構築に使用される主要なモデルについて解説します。 これらのモデルが注意メカニズムをどのように活用し、それぞれの特徴を持っているのかを詳しく見ていきます。

公開日: 2024-09-09
最終更新日: 2025-01-27
バージョン: 1

下田 昌平

開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。