MCPによる状態制御と再現性の向上とは?|MCP入門 2.3|生成AIの安定設計の鍵

2.3 MCPによる状態制御・再現性の向上
AIを一時的な「会話パートナー」として使っていた頃は、多少の出力のブレや矛盾も“ご愛嬌”として済ませることができました。 しかし、AIを業務ツールや本番アプリケーションに組み込む段階になると、そうはいきません。 必要なのは、安定した出力、一貫した振る舞い、テスト可能な設計です。
Model Context Protocol(MCP)は、まさにこの課題を解決するために登場した設計思想です。 本セクションでは、MCPがどのように「状態(State)」を扱い、それによってAI出力の再現性や制御性を高めているのかを詳しく見ていきます。
なぜ再現性が必要なのか?
再現性(Repeatability)とは、同じ入力・同じ設定で、常に同じ出力が得られる性質のことです。 ソフトウェア開発では当たり前の前提ですが、生成AIにおいては意外と実現が難しい特徴でもあります。
なぜなら、LLMは「出力が確率的」であり、「内部状態がブラックボックス」であり、「プロンプトの組み合わせが膨大」だからです。 そのため、再現性が確保されていないと、以下のような問題が発生します:
- ユーザーによって回答がバラバラになる
- バグの再現が困難で、テストができない
- UX(体験)が一貫せず、信頼を失う
こうしたリスクを回避するには、AIが「どんな状態」で、何を前提に応答しているのかを設計・制御する必要があります。 ここに、MCPが持つ状態制御(State Control)の力が発揮されます。
状態とは何か?MCPにおける「State」の捉え方
MCPにおいて「状態」とは、モデルが応答を生成する際に参照する以下のような要素のことです:
- 役割: モデルの立場・人格(例:「あなたはプロの編集者です」)
- 目的: このセッションの目標(例:「要望に対して改善案を出す」)
- 履歴: 過去の会話、関連する事実や制約
- ユーザー情報: 名前、職業、立場、好みなど
- 出力制約: 文字数、形式、禁止語句など
これらを明示的に保持・管理・注入することによって、モデルの振る舞いを定義し、それを再現することが可能になります。 MCPはこの「状態」を構造化し、設計者がコントロール可能にするためのフレームワークなのです。
構造的な状態設計のメリット
MCPを導入して状態を明示的に設計することで、次のような効果が得られます:
- 一貫性: ユーザー体験が安定する(立場やトーンがぶれない)
- 再現性: 同じプロンプト構成で、出力結果を比較可能になる
- 拡張性: 複数ユーザー・セッション・スレッドを分離管理できる
- テスト可能性: スナップショット的な検証・ログが容易になる
特に再現性とテスト性の確保は、生成AIを「ソフトウェア」として品質管理するうえで不可欠な視点です。
具体例:状態の分離による制御のしやすさ
例えば、以下のような構造で状態を保持することが考えられます:
System Instruction: あなたは中小企業の経営コンサルタントです。 丁寧で簡潔な言葉で、経営者に助言してください。 User Profile: 名前: 田中一郎 業種: 製造業 関心: 売上拡大、補助金活用 Session Memory: - 昨日、広告運用について相談があった - 「採用に困っている」という課題も出てきた
このような状態が構造化されていれば、毎回の出力がこの文脈に従って形成され、一貫性のある応答が可能になります。 また、状態だけをスナップショットとして保存しておけば、いつでも同じ振る舞いを再現可能です。
状態制御は「インターフェース設計」である
MCPの本質は、単なるプロンプトの枠組みを超えて、LLMにおけるインターフェース設計にあります。 つまり、「モデルに何を、どのように渡すか」を、安定的・予測可能な設計として構築することがゴールです。
状態制御とは、モデルのブラックボックス性を補い、人間が期待する動作を得るための設計によるチューニングなのです。
MCPの状態設計と再現性について理解が深まったところで、次はいよいよ実装面に目を向けます。 特にOpenAIの「Function Calling」やLangChainの「Memory」機能は、MCPの思想に非常に近い構造を持っています。 次のセクションでは、それらがどのようにMCPと呼応する形で設計されているかを解説していきましょう。 → 2.4 実装例:OpenAI Function Callingとの関係性へ進む

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。タグ
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任 弘毅
株式会社レシートローラーにて開発とサポートを担当。POSレジやShopifyアプリ開発の経験を活かし、業務のデジタル化を促進。

下田 昌平
開発と設計を担当。1994年からプログラミングを始め、今もなお最新技術への探究心を持ち続けています。